シルバーリリィ
そういうことかよ。チクショウ!
つまりだ。
犯人はここまでしておいて、最後のトドメは自分の手で刺すことを拒否したのだ。
ゴミ捨て場に放置すれば、ダメージを負った種は自然に枯れるか、朝になれば収集車に潰される。
それが望みだったのだろう。なんて卑劣な奴だ!
ふと、コロちゃんを見ると、真っ青な顔で震えている。
「コロちゃん……? どうしたの、大丈夫!?」
肩に手を触れると、コロちゃんはビクッと身体を揺らしてこちらを見た。
「お、思い出したんです……SilverLilyって名前っ! そ、その人たぶん、深水常之宮を落札した人です!」
「え……? ああっ! 高レベルのダンジョンスプラウトを欲しがってたから、壊れた深水常之宮はいらないって返品してきた落札者か?」
「は、はい。へ、返品者の欄にIDが載ってました……間違いないです、SilverLilyです」
「じゃあ、一歩間違えてたら、経験値を吸い取られて捨てられてたのは深水常之宮だったってことかよ!」
恐怖とショックに耐えきれなくなったのか、コロちゃんは顔を伏せてわあわあと泣き始めた。
「う、うう……ひどいっ! お、おじいちゃんがどんなに苦労して深水常之宮を育てたのかも、日本一になった時どれだけ喜んだかも知らないくせにっ!」
それは桜・咲姉妹の『アクアキャットパラダイス』も同じである。
ダンジョンを強く大きく育てるために、どれだけの想いを、どれだけの時間を、どれだけの努力を積み重ねてきたのか……?
同じダンジョンガーデナーなら、知らなくたって想像くらいできるはずだ。
それが、終わった。
いや、終わらされてしまった。
想いも、時間も、努力も、全て無にされた。
雑に、無慈悲に、すべて無視され、消費されてしまった……。
なぜ、こんな酷いことができる?
顔も知らない何処かに誰かに対する怒りが、メラメラと燃え上がる。
だけど、取り乱す俺やコロちゃんと違って、剛だけは冷静だ。
騒ぐでも怒るでもなく、ただ黙って腕を組んでいる。
ピンときた。
「おい、剛さん。まさか、まだ情報を隠してるんじゃないだろうな? ……ひょっとして、犯人に心当たりがあったりするのか!?」
「むっ」
俺の問いかけに、剛の眉毛がピクリと動く。
「マジかよ……剛さん! いや、マスター剛っ! 頼むよ、知ってることがあるなら、教えてくれ! こんな酷いことをやる奴、許せないだろ!?」
「……実は僕の生徒にひとり、ありえないほど高速でレベルが上がった者がいる」
「そいつの名前は!? どこに住んでるんですか! 一言いってやらなきゃ気が済まない!」
「いや、ダメだ。名前を出すわけにはいかん」
「ここまで来て、出し惜しみですか!」
「僕にも、トレーナーとしての立場がある。経験値の移し替え……そんな恐ろしい事が本当に行われていたならば、僕も許せない! しかしながら、証拠がない。推測だけだ。証拠もなしに、個人の情報を出すわけにいかない」
コロちゃんが、泣き顔を上げて言った。
「し、調べさせてください……」
「なんだって?」
剛が尋ね返すと、コロちゃんは震える声で続けた。
「カ、カフェオレと同じなんです、今は……白でも黒でもありません。ほ、本当のことは、犯人にしかわからないからです。で、でもボクたちが証拠を集めれば、カフェオレにコーヒーやミルクを足すように、白か黒かの真実に、限りなく近づくことはできます! ご、剛さん……名前を教えてください。ボ、ボクらに、その人を調べさせてください!」
「コロちゃん、いいこと言うぜ! そうだよ、調べさせてください! 調べるだけならいいでしょう? 剛さんに迷惑かけませんから」
俺とコロちゃんの呼びかけに、剛はしばらく目をつぶって考える。
しばらくして、口を開いた。
「いいや。やはりダメだ」
「剛さん!?」
「無理なんだよ。計算が合わない」
剛は腕を組んだまま、淡々と説明を続けた。
「該当する人物は、わずか一か月ちょっとでレベル23から26まで上げている。だが、今ざっと計算してみたところ、経験値の移し替えでレベルを上げるには、どんなに甘く見積もっても三か月はかかる。つまり、移し替えでレベルを上げるには、期間が短すぎるんだ」
コロちゃんが聞き返す。
「そ、そんな……その人には、絶対に無理なんですか!?」
「ああ、無理だ。時間を歪めでもしない限りはね」
………………。
時間を……歪める?
「あっ!!」
思わず、立ち上がる。
二人がビックリした顔で俺を見た。
ゴクリと喉を鳴らしてから、口を開く。
「お、俺……。知ってるかも。時間を歪める方法」
「なんだって!?」
「ほ、本当ですか!?」
そうだ。
時間を歪めることは可能だ。
ことダンジョンスプラウトに限っては、金さえ払えばその時間を早められる。
……答えは、一本一万円。
理央の『怪しげな栄養剤』だ。




