レイドの必勝法
「――と、いうわけなんですよ。どう思います、二人とも」
俺は咲から聞いた話を、剛とコロちゃんに改めて話した。
正直、わからないことが多すぎる。
俺一人の頭では手に余ると思ったからだ。三人寄ればナントヤラである。
ちなみに咲とはLINEを交換して、「何かわかったらすぐに連絡するから」と伝え、先に帰ってもらった。
話を聞き終えると、剛は腕を組み、険しい表情で黙り込んだ。
こんな顔を見るのは初めてだ……。
「……剛さん。何か心当たりがあるんですか?」
「ん? あー、いや」
俺が尋ねると、剛は一瞬だけ口を開きかけ、すぐに閉じた。
俺は、そんな剛の顔をじっと見つめる。
そして真剣な声で、まっすぐに訴えた。
「剛さん。俺がこの話を相談したのは、知識と経験が豊富なあなたにアドバイスが欲しいからだ。わかっていることがあるなら、教えてほしい。頼む、剛さん。……いや、マスター剛」
剛はしばらく俺を見つめたあと、意を決したように口を開いた。
「玄君。それにコロちゃん。ダンジョンスプラウトのレイドには――必勝法があるのをご存じかな?」
「必勝法?」
俺は思わず聞き返した。
それが、咲の話と関係しているのか?
少し考えてから、俺とコロちゃんは答える。
「さあ……? レベルが低くて、勝てそうな相手とだけ戦うとか?」
「え、ええっと……あ、相性の悪い相手とは戦わない、ですかね」
だが、剛は首を横に振った。
「いいや。もっとずっと簡単だ。それに、『必勝法』というくらいだからね。初めて戦う相手でも、レベル差が5以内なら確実に勝てる方法だよ」
「レベルが5以内なら……確実に勝てる!?」
そ、そんな法外な話があるかっ!
つまり俺の『サービス残業お断りダンジョン』は今レベル23だから、レベル28以下の相手には確実に勝てるってことだろ?
そしたらレベルは上げ放題だし、世界チャンピオンにだってなれるじゃないか!
その後も俺とコロちゃんは思いつく限りの考えを口にするが、剛は全部に首を振った。
ついにはギブアップした俺たちを見つめて、剛は落ち着いた口調で喋り始めた。
「どうやら、わからないみたいだね。まあ、それも当然だ。まともなダンジョンガーデナーなら、思いつきもしない方法だからね。……答えは『剪定の逆』だよ」
「剪定の逆?」
「そう。相手のダンジョンの輝いている部分に、ハンマーで穴を開けるんだ。そこに割り箸でも突っ込んで、中をグチャグチャにかき回す。そうすれば罠もモンスターも壊れて、ラビリミンは素通りできるって寸法さ」
「はぁ!? そ、そんなの、ダメに決まってるでしょッ! 第一、相手のダンジョンを壊したら器物損壊だ!」
「その通り。誰かのダンジョンスプラウトならね」
「誰かの……? って、あ、ああっ! そうか!」
誰かのダンジョンスプラウトならば、器物損壊罪。
しかし自分のダンジョンスプラウトならば、いくら壊しても問題にならない。
剛は相変わらずの厳しい表情で、宣言した。
「高レベルのダンジョンスプラウトを使った、経験値の養殖……いや。移し替えとでもいうべきかな。それが行われた可能性がある」
レベルの高いダンジョンスプラウトを用意して、強そうな部分を壊してからレイドさせる。
当然、壊れたダンジョンはまともに機能するはずもなく、クリア経験値を荒稼ぎできる。
それを繰り返して、本来なら絶対に勝てない高レベルの個体から、手持ちの低レベルの個体へと大量の経験値を送り込むのだ。
同じ相手と何度も戦えば、少しずつ経験値は落ちて行く。
しかしレベルが上の相手に毎回『確実に勝てる』のならば、通常のレイドをやるよりずっと効率がいい。
「じゃあ、生きているダンジョンスプラウトがゴミ捨て場に捨てられてた理由って……?」
「ああ。修復を繰り返してレベルが下がったダンジョンを、用済みとして捨てたんだろう。足がつかないように名前を変えて、ログをバグらせてね」
言葉が出なかった。
――人は、どこまで残酷になれるのだろう。
俺たちガーデナーは知っている。
ラビリミンが、どれだけ一生懸命にダンジョンを作っているのか。
小さな体で資材を運び、罠を作り、モンスターを配置して。
細かくて複雑なダンジョンを、少しずつ、丁寧に、めげずに作り上げる。
俺たちにできるのは、そのための資材を揃えること。
栄養剤を与えること。
そして、強くするため剪定することくらいだ。
なのに――。
無理やり負けさせるためダンジョンを壊すなんて。
しかも、よくできた場所を狙って壊す!
そして散々利用したダンジョンスプラウトを、最後はゴミとして捨てる。
そんなの外道の極みと言うほかない!
ふと、理央の言葉が脳裏をよぎる。
『“捨てた理由がある”んじゃなくて、“最後まで関わりたくなかった理由がある”って考えた方が、しっくり来ない?』
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