キャッチ・マイ・ハート
部屋は和室の十畳だ。窓際にはソファと小テーブルが置かれた“あの謎のスペース”(広縁と言うらしい)も付いていて、窓からの眺めもなかなか悪くない。
エコバッグに着替えの下着と浴衣と帯を入れて、三人で大浴場へと向かう。
男風呂は『木霊の湯』。内風呂はヒノキで、外風呂は露天の岩風呂だ。
身体を洗い、大きな湯船にどっぷりと身を沈める。
肩と首の間までお湯に浸かると、「あー」だの「う゛ー」だのと言った声が自然に出てしまう。
すでに夕方になっていて、ガラスの大窓から抜けたオレンジ色の西日が、湯気の充満した浴室内にキラキラと反射して、やたら綺麗な光景だった。
熱いお湯に浸かっていると、じんわりと汗が浮いてくる……。
頭に乗せたタオルで顔や首の汗をぬぐい、また三人で「あー」だの「う゛ー」だのと唸る。
俺たちは「疲れが吹っ飛ぶ」「来てよかった」「誘ってくれてありがとう」なんて口々に言いあい、存分に湯を堪能してから風呂を出た。
身体を拭き、新しい下着を着て、浴衣に腕を通し、帯を締めて……っと。
「うおっ!?」
振り向いた俺は、のけぞって声を出す。
「……えーっと、コロちゃん。なんで君は、女の子の浴衣を着てるのカナ?」
語尾をちょっと上げつつ、そう尋ねる。
藍の縦縞で地味そのものの男物と違って、白百合が染め抜かれた可憐な水色の浴衣を着たコロちゃんは、前髪を下ろした顔で不思議そうに首を傾げた。
「えっ? な、なんでって……。フ、フロントで自由に選べたので……こ、これが可愛かったから借りてきたんですけど……ダメ、でしたか?」
泣きそうな顔で尋ねられて、俺は慌てる。
「あ、いや、ダメじゃない! ダメじゃないんだけどね。……えーっと、なんというかね。男湯でその浴衣を着られると、脳がバグるっつーか……」
コロちゃんは瞳を潤ませて、俺の言葉を待っている。
うん、可愛い。めちゃくちゃ可愛い。
おかしいなぁ。俺、さっきまでこの子と風呂入ってたはずなんだけどなぁ。
「うーん。ま、可愛いからいっか!」
俺が笑うと、コロちゃんはホッとした表情になった。
「よ、よかったぁ……。それじゃボク、ちょっと失礼しますね」
コロちゃんは洗面台に座り、髪をドライヤーで乾かしはじめた。
すると剛がその隣に座り、安全カミソリで腕と脇のムダ毛を剃ってタオルで拭った。
コロちゃんが化粧水をつけ、乳液で肌を整える。
剛がボディオイルを肌に塗り込む。
コロちゃんが薄いピンクのリップを引く。
剛が筋肉を膨らませて鏡に映し、血管の浮きと肌の張りをチェックしている。
な、なんだこのカオスな空間は……頭が痛くなってくる。
「俺、もう外に出ますね」
「げ、玄さん。男の人もスキンケアした方がいいです!」
「そうだぞ玄君。肌のテカりが筋肉の迫力を倍増するんだ!」
なんか後ろでワイワイ言ってたが、気にせず足早に男湯を出た。
するとちょうど凛花とみのりも、女湯から出てくるところだった。
「あ、玄さん。今、出たところですか?」
花霞模様のピンクの浴衣の凛花が笑う。
淡くて優しい色合いが、湯上りの肌とアップにした髪によく似合っている。
思わずドキッとするほど魅力的だ。
「うん。コロちゃんと剛さんもすぐ来ると思う」
「お夕飯はみんなで食べたいから、部屋食じゃなくて宴会場にしてもらったわ~。お風呂に入る前に頼んだし、そろそろ準備できてるはずねぇ~。みんな揃ったら行きましょうか~」
おっとりしてても、さすがは二児の母。
段取りは完璧というわけか。
みのりの方は、朝顔柄の若竹色の浴衣で……でっか!!!!!!
でっっっっっかあ!!!
まるでメロンみたいな大きな塊が二つ、交差した襟の間からこぼれ見えてる!
そんなビッグな双丘が、みのりが動くたび浴衣の布越しにタユタユと揺れる!
うわあ……なんじゃこりゃ。
こ、こんな圧倒的なボリューム感が、許されていいものでしょうか、みなさんッ!?
俺が食い入るように見つめていると、凛花がペシンと後頭部を叩いた。
「あいたっ。何すんの、凛花ちゃん」
「何すんのじゃないでしょっ。玄さん、見すぎです!」
「う。あ、い、いや……そのう……おっしゃる通りで」
確かにそうだ。ぐうの音もでねえ。
「みのりさん、すみません。ついつい目線が吸い寄せられてしまいました」
俺が頭を下げると、みのりはいつもの調子でゆるゆると笑った。
「いいのよぉ、玄君~。ごめんなさいねえ、大きくて~」
ごめんだなんて、とんでもない!
素晴らしいものを拝ませていただきました。
なんて言ってるうちに、背後でガラリと扉が開き、六時半だよ全員集合である。
お口でとろける〜
ワントユーワントユー!
ぶるぁああ!ぶるぁぁぁあ!
それは丸くて大きい♪




