ハイウェイ・グルメ
ゴールデンウィークの当日である。
朝の九時までしっかりと寝て、朝飯代わりのシリアルバーを齧り、洗顔、歯磨き、髭剃りを済ませる。最後に、栄養剤のアンプルを鉢植えの土に突き刺した。
犬や猫やハムスターと違って、一日や二日は放っておいても平気なのが、ダンジョンスプラウトの良い所だ。
時刻は朝の九時三十五分。
一泊分の着替えを入れたリュックを背負い、家を出る。
十分ほど歩いて駅前に着くと、すでに凛花とコロちゃんが待っていた。
俺が手を振りながら近づくと、凛花がタタタッと小走りで近づいてくる。
「やあ、おはよう。……凛花ちゃん、どうしたの?」
「ちょ、ちょっと! あのガラの悪い子、誰ですか!?」
怯えた小声で指さす先には、スカジャンを着て髪をオールバックに固めたコロちゃんが立っている。
俺も同じく、ヒソヒソ声で尋ね返す。
「誰って……えっ? 知らないの?」
「知りませんよ。私、挨拶されたけど、最初は自分にしてるって気づかなかったですもん」
「そんなはずないんだけどなぁ。お互い、何度もレイドしてるって聞いてるけど」
「嘘ですよ! あんな怖い子、初めて見ました」
「怖いって。あれ、コロちゃんだよ。本当に知らない?」
「コロちゃ……えっ! コロちゃんっ!?」
凛花は首をシュバッと音がしそうなほど素早く首を動かして、コロちゃんを見つめる。
それから、ギギィっとゆっくり俺の方へと向き直った。
目をまん丸にして、口を『あれが……!?』の形に動かす。
「そう、あれがコロちゃん。もしかして、男の子だって知らなかった?」
俺は思わず、苦笑する。
「い、いや。女装してるとは聞いてましたけど……えええーっ! う、嘘でしょぉ!?」
うん、うん。その気持ち、よくわかる!
と、俺たちの前に、ミントグリーンのステップワゴンが止まった。
助手席からみのりが降りてくる。
「あらあら、まあまあ。みんな、遅刻しないで偉いわねぇ~」
運転席に窮屈そうに収まった剛が、俺たちにニカリと笑いかける。
「やあ、おはよう! 全員そろってるなら、出発しようか」
ステップワゴンは七人乗り、後部座席は二列シートだ。
みのりが、後部座席のドアを開ける。
コロちゃんが真っ先に三列目シートに乗り込むと、俺たちの方に手を伸ばした。
「荷物、こっちに置いてください。スペース空いてるんで」
「ありがとね。ほら、凛花ちゃんバッグ!」
「は、はい。……えっと、ありがと」
ちょっとギクシャクしつつも、車は馬里音温泉に向けて出発した。
もっとも、その緊張も長くは続かなかったが。会話を重ねるうちに、凛花も中身はいつものコロちゃんとわかったようだ。
小一時間も経った頃には、車内はすっかり和やかな雰囲気へと変わる。
途中、サービスエリアで昼食をとることになった。
俺は得入りラーメン大盛りで、凛花は野菜たっぷりのスープカレー。
コロちゃんはトンカツ定食で、みのりは天ざるそば。
剛はなんと、併設されてるコンビニでゆで卵五つと塩焼き鳥を三本、それとトマトジュースを買ってきた。
「……剛さん、旅行中までそんな食事ですか?」
俺が少し引きながら尋ねると、剛はゆで卵の黄身を取り除きながら笑った。
「ハハハ! 筋肉を維持するには、やっぱりタンパク質が大事だからね! まあ今日はトレーニングもしてないし、夜は旅館の料理を普通に楽しむつもりだけど」
それが聞けて、実によかった。
ゆで卵の白身を食べ続ける人と酒を飲んでも、あまりウマくはないだろう。
みのりがそばを啜り、サクサクの天ぷらを食べて目を細める。
「あらま、あらまあ……! 最近のサービスエリアって、ご飯が美味しいのねえ~」
「ええ。スープカレーもスパイス効いてて、本格的です」
「トンカツも分厚くて、揚げたてサクサクっすよ」
「俺のラーメンも、スープが濃厚で相当レベル高いぞ! 東京のどっか有名な店が監修してるらしい」
みのりが頬に手を当てて、感心したように言った。
「ほんと、びっくりだわぁ。昔のサービスエリアなんて、お腹が満たせればそれで十分って感じだったものねえ~」
「そうでしたね。俺がガキの頃のサービスエリアの食事は、カレーかラーメンの二択で、お世辞にもウマイもんじゃなかったです。麺は伸びててスープは業務用、カレーもレトルト丸出しみたいな」
凛花がスープカレーを口に運びながら言う。
「私、スープカレーが大好きで、札幌までよく食べに行きますけど、このカレーは専門店にも負けない味です。鶏肉もホロホロだし、素揚げされたお野菜も、火の通し方が絶妙ですよ」
「オレのロースカツ定食はチェーン店っすけど、豚肉がこの地方で育ててる銘柄豚らしいです。脂が甘くて箸で切れそうなくらい柔らかいっす」
みんな、思い思いに料理の感想を語り合う。
ただ一人。黙々と白身と焼き鳥を食べ続ける男を除いては。
それでもなんだか、剛の表情は楽しそうに見えた。




