サシならいいよ
フリマスペースに足を運ぶ。
すでに撤収を始めてる店もあったが、理央の店はまだ開いていた。
「こんちわ。景気はどう?」
「ボチボチだね。悪くはないよ」
「ふうん。こないだの数十万だか栄養剤を買っていった金持ちは、もう来ないの?」
俺は商品を物色しながら、世間話に聞いてみる。
「来ないねえ。ハイペースでレイドをするなら、とっくに使い果たしてるはずだけど。リピートしにこないってことは……」
「金が尽きたかな?」
「そんな程度の金持ちには、見えなかったけどねえ。それとも、商品に問題あったか。まあ、クレームもないから、その線も薄いけど。あるいは、目的を果たしたから必要ない……とかね」
「目的? ……どんな目的だろう」
「さあね。アタシもそれ、知りたいかな。高額の栄養剤を使ってまで、連続でレイドをやる理由」
暇も金もあってレベルの近い相手もいるのなら、連続でレイドができるのは楽しいだろう。
しかしながら、それを急にやめる理由も思いつかない。
金持ちの気まぐれってやつか?
俺はいつもより少し高い、三本千円の栄養剤を指さした。
「これ、くれよ」
「毎度ぉ。お兄さん、いつもありがとね」
理央に千円札を一枚渡しながら、なんとなく聞いてみる。
「あ、あのさ。お姉さん、ゴールデンウィークは何してる?」
「アタシ? アタシは自宅で研究データをまとめるよ。なんでそんなこと聞くの?」
「あっ……と。その。俺、ゴールデンウィークに一泊二日で温泉旅行に行くことになってさ。よかったら、お姉さんも来たり、する?」
俺がそう言うと、理央はキョトンとした後で、面白そうに唇の両端をニィッと持ち上げた。
「ちょっと、ちょっと。お兄さん、それ、マジで言ってるぅ?」
理央は公民館の中央、さっきまで俺らがいた辺りを指さす。
「ここから眺めてたけどさ。それって筋肉ムキムキな人とか巨乳の人とか、赤いエプロンの娘とか、あの辺の連中と行くわけでしょ? お兄さん以外に知り合いいないのに、アタシがそんなの参加すると思う?」
「あ、そ、そうだよな。……ごめんな。デリカシーなくって」
理央は栄養剤をレジ袋に入れると、俺に手渡す。
「いいって、謝らなくて。来るとは思わなかったけど、一応は聞いてくれたんでしょ? お兄さんのそういうとこ、アタシャけっこう好きだよ」
それから、付け足すように言う。
「まあ、お兄さんとサシで温泉だったら、行ってもいいけど」
「えっ?」
「車じゃなくて、電車とかバスとかさぁ。のんびりした移動手段で、電子リーダーにおすすめのマンガ入れて、お互いに交換して読みあうの。そんで人の少ない温泉地で、一日三回くらいお湯に浸かってね。上がるたびに違うもの飲んでさ。夜はテレビでやってる映画なんかを地酒でも飲みながら一緒に見て、マンガや映画の感想を言い合って、そのまま寝ちゃうの。……そういう旅だったら、してもいいよ」
なんだそれ。
楽しそうじゃねえか。
でも男女二人の温泉旅行っつーか、もう同性の友達との距離感だな。
理央はレジ袋を持つ俺の手を、ポンと叩く。
「温泉、楽しんできなよ。おみやげ楽しみにしてるからさぁ。えひひっ」




