ゴールデンウィークなにしてますか? 忙しいですか? 浸かってもらっていいですか?
うちはブラック企業だが、盆と年末年始、それにゴールデンウィークには、数日だけ休みがある。
理由は単純で、役員や管理職たちが、全員そろって休むからだ。あのムカつく課長も出社しない。
平社員もおこぼれというわけだ。
まあ、この連休自体いわゆる『強制有給』ってやつなのだが……。
法律上、会社は年に五日は社員に有給を取らせる必要がある。違反すると罰金である。
そこでお盆や年末年始ゴールデンウィークの連休を、強制的に有給にすり替えてノルマを消化してるのだ。
もっとも、飛び石の平日まで有給で埋めて大型連休に……なんて、不届きな真似は許されてないが。
それでも嬉しい平日休みだ。
昼までゆっくりと寝て、夕方までダラダラして、夜は酒でも飲んで、一日を過ごす予定だった。
ところが俺の答えを聞いた凛花は、顔を赤くしてモジモジしている。
──なんだ?
何か言いたいことでもあるんだろうか。
俺がしばらく待っていると、彼女は意を決したように顔を上げた。
「……っ。あ、あのですね……。玄さん、いっつも疲れた顔してるじゃないですか。だから……その、お暇だったら、一泊二日くらいで温泉旅行でもどうかなー、なんて……」
「えっ、お、温泉!? 俺と凛花ちゃんが、ふたりきりでっ!?」
「へ、部屋はもちろん別々ですよ?」
凛花は慌てて手を振った。
「ああ、そりゃそうだよな。なんだ、驚いた」
俺も胸をなでおろす。
そうだよな? 俺みたいなおっさんに、嫁入り前の若い女の子がな。
きっと目の下にクマを作ってる俺を案じて、彼女なりに考えてくれたのだろう。
……いや、俺の方に下心がないと言えば、嘘になるけど。
さっそく淡い期待を胸にスマホで宿を検索してみたが、画面に並ぶのは『満室』の赤い文字ばかり。
「うーん、全滅だ。さすがにゴールデンウィークを来週に控えてちゃ、どこも空いてないね。もっと早く言ってくれればよかったのに」
俺の言葉に、凛花が唇を尖らせる。
「私だって、何度も誘おうとしたんですもん! でも玄さん。最近ずっと、白衣の女の人と楽しそうにしてたから……」
「あー、それはごめんね! いや、マジでごめん!」
確かにここしばらくは、ずっと理央に付きっきりだった。
そういえば挨拶するたび、凛花が何か言いたげにこっちをチラチラ見てた気がする。
あれは温泉旅行に誘おうとしてたのか。
「おっ、泊まれる宿を見つけたぞ! でも一部屋しか空いてない。こりゃダメだな。日帰り温泉にする?」
俺が画面を見せながら尋ねると、凛花は再び顔を赤くしてうつむき、指先をいじり始めた。
彼女が口を開いて、何かを言いかけた、その時だ。
「あらまあ、温泉? いいわねえ~」
と、後ろから明るい声が飛んできた。
振り向くと、ニコニコ顔のみのりと剛が立っている。
そういや、この二人って知り合いなんだっけ。
「はい。ゴールデンウィークに一泊二日で行こうと思って。だけども、どこも一杯で……日帰りにしようかって話してたんです」
俺が肩をすくめると、みのりは指でバッテンを作る。
「ダメよ、ダメダメ~。温泉はやっぱり、泊まらなきゃ! 日帰りだと移動で疲れちゃって、骨休めにならないわよぉ~」
「とはいえ、泊まれる宿がないんじゃ、どうしようもないですよ」
みのりが剛に言う。
「ねえ、剛ちゃん。なんとかならないかしら~? あなた、とっても顔が広いでしょう~」
剛ちゃん!? この二人、どういう関係なんだ……。
剛が苦笑いをする。
「相変わらず無茶言いますね。ま、当たるだけ当たってみましょう」
言いながらスマホを取り出して、操作する。
十五分くらいして、剛が言った。
「車で二時間半の場所にある、馬里音温泉の遠音荘って宿なら二部屋空いてるそうです。ちょうどキャンセルが出たとかで……二人とも、どうする?」
「えーっ、マジすか! ぜひお願いします!」
「キャー、やったぁ! ありがとうございます!」
俺と凛花、二人の喜びの声が重なった。
みのりがのんびりした声で言う。
「よかったわねえ、二人とも。それじゃあ当日は私が車を出すから、剛ちゃん運転お願いねえ~」
「……えっ」
「……ん?」
今度は、戸惑いの声が重なった。
「みんなで温泉旅行なんて、何年振りかしら。おばさん、とっても楽しみだわぁ~」
アレェーっ!?
な、なんかみのりさん、一緒についてこようとしてない??




