ゴミ捨て場のミステリー
理央とのレイドも、今日で三回目だ。
ちなみに先週は、お互いのレイドログを延々と読みふけった挙句、残り時間はガンダムジークアクスの話で無駄に盛り上がった。
レイドの結果は、俺がクリアで、理央が撤退だった。
今回のレイドの最中、俺はダンジョンスプラウトを拾った時の話を、理央に打ち明けることにした。
これまで一緒に過ごしてきて、話を聞かせても彼女が問題を起こす相手ではないと。
少なくとも、面白半分にネットに書き込んだりするような奴ではないと、そう判断したからだ。
それに、正直なところ。
俺自身も『冥』属性について、何か手がかりが欲しかった。
理央なら、何かわかるかもしれない。そんな期待もある。
俺は彼女に、嵐の夜に終電を逃し、深夜の街を歩いたこと。
ゴミ捨て場で、ボロボロのダンジョンと鉢植えを見つけたこと。
ラビスコープの表示がバグっていたが、確かレベルは二十以上で属性は水だったこと。
生き残っていた一匹のラビリミンと鉢植えを持ち帰ったが、目の前でそいつは死んで消えてしまったこと。
その時、不思議な事が起こったこと。
稲妻が室内を走り、ストーブからほとばしるように鉢植えへ落ちたこと。
翌朝、ダンジョンが復活していたこと。
レベルは1に戻り、見たこともない『冥』属性になっていたこと。
「──で、そんな感じだ」
一通り話し終えると、理央は腕を組んで首を傾げた。
「ふうん……変な話だねえ。全く理解できないよ」
「だろ? 雷が部屋の中を走るとか、属性が変わるとか、意味わかんねえよな」
俺が同意すると、理央は一瞬キョトンとしてから、ぶんぶんと首を振った。
「あー違う違う。アタシが理解できないの、そこじゃない」
「は?」
「お兄さんが言ってるのは『現象』の話でしょ? 雷がどうとか、復活したとか。そういうのが理解不能」
「ああ、まあ……そうだな」
俺は頷く。
理央が言った。
「えひ! 現象はさ、現実に起きたことなんだよ。お兄さんが嘘を吐いてるとか、見間違いとかじゃないならね。理解できないのは、まだアタシたちの科学が追い付いてないだけ。だから全然不思議じゃない」
妙にキッパリと言い切られて、少しだけ納得してしまう。
「……ま、そうかもな。じゃあ、何が引っかかってるんだ?」
理央はニヤッと笑った。
「アタシが理解できないのは、シチュエーション。人間側の話だよ」
「人間?」
「そう。なんでダンジョンスプラウトが、ゴミ捨て場にあったの? って話」
「そりゃもちろん、誰かが捨てたに──」
言いかけて、途中で黙る。
彼女の言わんとしてることが、わかったからだ。
理央はえひっと笑い、言葉を続ける。
「お兄さん、知ってるでしょ? ダンジョンスプラウトって、高く売れるんだよ。しかも、お兄さんが見つけた時は、まだラビリミン生きてたんでしょ? すぐに世話すれば、持ち直す可能性は十分にある。回復してからメルカリとかヤフオクに出せば、普通に数十万で売れるよ」
「……確かに」
ダンジョンスプラウトの中古相場は、五十万から百二十万ほど。
名の知れた個体ともなれば、数百万から数千万に跳ね上がる。
死んだダンジョンの残骸でさえ、状態が良ければ十万円以上で取引される。
「じゃあさ、それを誰が、なんで“捨てる”の?」
理央は小首を傾げたまま、ジッとこちらを見る。
「アタシもさぁ、この業界けっこう長いけど。生きてるダンジョンスプラウトをゴミ捨て場で拾ったなんて話、聞いたことないよ! 完全に枯れてるなら、まだわかるけど。でも中途半端に生きてる状態で放置って、マジで意味わかんないんだよねえ。えひひっ」
言われてみれば、その通りだ。
いらないダンジョンスプラウトは、売ればいい。
生きてるダンジョンスプラウトが捨ててある理由が、ひとつも見つからない。
「……い、嫌がらせで誰かのを盗んで、捨てたとか?」
苦し紛れに言うと、理央は即座に首を振った。
「それなら、きっちり枯らすでしょ。コアを壊せば一発なんだから。ボロボロに壊すほど恨んでるなら、なおさらトドメを刺してないのはおかしいよね? それにもし本当に犯罪なら、放置なんて雑すぎるでしょ」
言い返せない。
理央の声が、何かの宣告のように続く。
「壊そうと思えば壊せた。売ろうと思えば売れた。でも実際は、死にかけで放置されてた。つまり──」
理央は少しだけ声を落とした。
「正確には、“処分しきれなかった”。そう考える方が自然でしょ」
なぜだかゾクリとした。
「……」
「“捨てた理由がある”んじゃなくて、“最後まで関わりたくなかった理由がある”って考えた方が、しっくり来ない?」
彼女の言葉が、やけに重く響いた。
背中にじわりと嫌な汗が浮かぶ。
理央は、楽しそうに目を細めた。
「ねえ、お兄さん。それって、本当にただのゴミだったと思う? アタシは、甚だ疑問だなぁ……えひっ!」




