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属性相性

 筋トレに(はげ)んだ分だけ、ダンジョンスプラウトの話に付き合う。

 それが彼、増田剛が提示した条件だった。


 ここ『マッスル・サンクチュアリ』には月額2980円の通い放題プランもあるが、一回五百円のビジター利用も可能だ。

 俺みたいに滅多に来ない奴には、回数制の方が安くついてありがたい。

 一線級の実力者から直接アドバイスを受けられる対価としては、冗談のような安値といえる。


 ウィーン……。

 足元で低く唸る、ベルトコンベアの駆動音。

 流れに急かされるように前へと足を踏み出しながら、隣で『サービス残業お断りダンジョン』のレイドログを読みふける剛に向かって、俺は一方的に話をしていた。

 内容は、薬師寺理央から聞かされた研究や学説についてだ。


「――というわけだ。剛さん、どう思う?」


 弾む息を混ぜながら俺がそう尋ねると、剛は太い片眉を上げた。


「玄君。君は今、僕の教えを受けにここに来ている。そうだね?」


 足を止めずに、俺は頷いた。


「ああ、そうだ」


 間違いない。

 すると剛はモストマスキュラーのポーズを取って、真っ白い歯をニカリと見せた。


「だったら、僕のことは『マスター剛』と呼びたまえ! なあに、遠慮はいらない。他の生徒たちも、僕のことをそう呼んでるよ」


 ええ……?

 ちょっと恥ずかしいな。

 しかし、ここでヘソ曲げられても嫌だしなぁ。


「……えっと。マスター剛。あなたの意見を聞きたい」


 少し口ごもりながらそう言うと、剛は嬉しそうに頷いて口を開いた。


「玄君は、属性の相性については知っているかな? 少し、スピード上げるよ」


 剛がリモコンを操作し、ランニングマシーンの速度が少し上がった。

 俺は答える。


「ああ。もちろん知ってるよ。火は風に強く、風は土に強く、土は水に強く、水は火に強い。いわゆる、『四(すく)み』だ。あと闇は光に()()()強く、闇も光にとても強い。『相互弱点』てのもあるよな? ……ハア、ハア、それくらいは常識だ」


「その通り。そして、雷は水火風土に強いが、代わりに光と闇に()()()()()弱い。ラビスコープで公開されてる統計データによると、四属性の出現率はそれぞれ18%で、合計72%。光と闇と雷が9%。また、二属性の出現率は、百分の一程度だ」


 全体の七割を占める四属性に有利を取れる雷は、世間では当たり属性と言われている。

 しかし、光と闇にはレベルが上でないと、まず勝てない。

 そうなると雷に一方的に有利の取れる光や闇が当たりだという人もいるし、逆にどの属性が相手でも大幅な不利がない水火風土こそが当たりだという人もいる。

 二属性は両方の属性の有利不利を半分ずつ受け継ぎ、こちらも世間では明確な当たりとされている。

 だがいずれにしても、誰が相手でも有利を取れる『最強の属性』なんてものはない。


「で。それが、どうしたってんです」


 剛が顎に手をやり、答える。


「……ダンジョンスプラウトは、人の精神を読み取ってダンジョンを作っている。君は、そう言ったね? だとしたら、属性とは『持ち主の性質』そのものを表してるんじゃないかな」


「ええ? それって、火属性の人間は水属性が苦手とか、土属性の人間は水属性に強いとか、そういう意味っすか? そんなバカな。冗談でしょう!」


 人間関係のような複雑なものが、そんなジャンケンみたいに単純な理屈で片付くはずがない。

 もしそれが真実なら、人間の性格の分布までもが、ダンジョンスプラウトの出現率と同じ統計に収まってしまうことになる。


 だが、剛は顎に手をやり、真顔で言った。


「もちろん、人の性格は立場や年齢、知性、趣味や経験。いわゆる陰キャ・陽キャといったコミュニケーション能力にも左右される。内心では苦手に感じていても、それを表に出さないことだってある。それでも僕は、これまで百人以上のトレーナーと関わってきた。その経験から言えば、その人が持っているダンジョンと苦手な相手は、おかしなくらいリンクしていたよ」


 俺は無言でルームランナーを蹴り進め、しばらくしてから言った。


「ま……まああんたほどの実力者がそういうのなら……あるのかもな。もしもダンジョンスプラウトが本当に持ち主の精神を写し取るなら、『属性こそがその人の本質』という理屈には、それなりに説得力がありますしね」

 

 よくよく考えると、星座や血液型占い、あるいは心理テストやうさんくさいサイコパス診断といったたぐいのものよりは、よっぽど信憑性(しんぴょうせい)の高い『科学』に思えた。

 付け足すように剛は言う。


「それに苦手だからって、必ずしも『嫌い』とならないのが人間関係の難しい所だ。ほら、よく聞くだろ? 幼馴染(おさななじみ)にはなぜか勝てないとか、反りが合わないけど良きライバルだとか。苦手にも色々とあるわけだし」


 そうか。苦手だからって嫌いにはならないのか。

 お互いが弱点のような友人関係や、片方がもう一方に頭が上がらない恋人同士だって、十分に成り立つ話だろう。

 レベル(年齢)が上なら、苦手な属性だって圧倒できるしな。


 息を切らしながら、俺は言う。


「じゃあ、俺が苦手な奴の属性は、俺のダンジョンの『冥』属性が苦手な相手ってことですか?」


「そういう事になるかもね。冥の苦手属性か。僕も知りたい。最後五分、ペースを上げよう!」


 苦笑交じりで剛は言い、リモコンを操作した。

宣伝。

来週、5月1日に「異世界ラーメン屋台、エルフの食通は『ラメン』が食べたい」のコミカライズ一巻が発売されます。

よろしくお願いしまー〜す!(鼻血

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― 新着の感想 ―
冥属性の苦手…神聖属性とか?もしかして伏見くん聖職者苦手?邪悪な存在?(笑)
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