自信と不安(アシュレイ)
遊びで周囲に混乱を招いていたドラゴンが、明確な意思を持って向かった先にはラナがいた。
私の愛する女性は魔物さえも魅了すると言えば聞こえがいいが、要するに良質な魔力に気付かれて目をつけられたのだ。
飛行をやめて大きな体を揺らしラナへ真っしぐらな様はある意味滑稽であるが、その先に起きることを予想した途端に身の毛がよだった。
ドラゴンは頭が良い魔物で滅多に現れるものではないが、気まぐれに人の住まいを襲う危険な魔物でもある。一度狙われた村は全滅させられることも珍しくない。
そんなドラゴンがラナに興味を持った。対象が魔力であるのは目に見えている。となれば次に起きることは想像に容易い。
ラナを攫い、巣に持ち帰って最も効率的な方法……物理的な意味でラナを体内に取り込むだろう。要するに血肉を接種して魔力を食らうのだ。
愛しい彼女を奪われるだけでなく、少しずつ……もしくは一気に食らわれる様を想像して、これまでに感じたことのない恐怖に襲われた。
トゥーリの結界が功を奏してラナを守っていたが、地を蹴り突進するドラゴンの勢いを目の当たりにして結界の効力に不安を抱いた。戦闘でトゥーリの魔法に不安を持つなんて初めてだ。
ラナを襲うフェンリルを薙ぎ祓い、ドラゴンの首を取ることだけに意識を向ける。するとドラゴンはサラに弱点である首を執拗に攻撃されて逃げ出した。
サラは使役獣として主であるラナを守り抜いた。サラマンダーが本来備えている以上の能力を発揮してラナを守り抜いてくれたのだ。
立派な最後だと思ったが、可愛がっていたサラを失ったラナの嘆きは凄まじく痛々しいものだった。
サラを見つけた時の私は少年の姿をしていたが、精神年齢はさらに低い幼児のものだった。巨大なサラマンダーへの畏怖よりも興味が勝り、ラナを喜ばせたい気持ちだけで動く我が身だった。
ラナから得ていた魔力で無意識にサラマンダーを使役して、ラナを主と認めさせた。サラも名前をもらいラナを気に入っていたようだった。
ラナは諦めずサラを探した。あの小さくなった生き物の生を信じて泥濘を漁り続けた。見つけたサラは瀕死の状態で、トゥーリが癒せたのも奇跡に等しい。
サラの存在はラナにとってとても大きなものになっていた。贈り主として嬉しいことだったが喜んでばかりもいられない。
ドラゴンは必ずもう一度やってくる。ラナの魔力を知っている私が言うのだから間違いない。いかにして守るのが最善だろうと思案する。
私にとって最大の役目はドラゴンの討伐だ。そのドラゴンがラナに目をつけた。どんなことをしてもラナを守るためにドラゴンを殺すと誓う。
そのためにラナと離れるわけにはいかなくなった。どのみちラナを狙ってやってくるのだから、ラナを守るためにも追い返すことなんてできない。ラナと別行動をとること自体が危険だ。
一夜明け、部下や辺境軍の騎士たちにドラゴンが再びやってくる可能性が高いことを説明する。ラナの特異性は隠して、使役能力に長けたラナにドラゴンが目をつけたのだとたけ告げた。
魔力が高い騎士たちの中にはラナの側にいると特別な感覚を抱くものがいるようで、詳しく説明せずとも納得していた。今は有事だ、私情で動くわけにはいかない。彼らに奪われないよう警戒するのはドラゴンを討伐した後にしなくては。
ここで待てばドラゴンが現れる、探す必要などない。嫌な確信だが外れる確率は皆無だ。
確実に仕留める自信はあったが、ラナを危険に晒すのに変わりない。愛しい彼女を怖がらせることになる。どうしたらラナを安心させてやれるだろうか。




