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ドラゴン来襲


 馬の蹄だけではない地響きが伝わってくる。

 わたしは目の前で繰り広げられる戦いに竦みあがっていた。


 今さら気づいても遅いのだけど、アシュレイ様が心配でここまで来たのは間違いだったと実感した。

 だって魔力補給なんてする隙がないのだ。

 多くの騎士と魔物が唸りせめぎ合う中に向かっていく勇気も力もない。馬上で怯えながら自分自身を抱きしめるのが精いっぱいだった。


 わたしはここにいるべき人間じゃないと気づいても遅すぎた。アシュレイ様を含む辺境軍がいかに強くても、数えきれない魔物を取りこぼさずにすべて討伐できるわけじゃない。

 隙をついて囲いから飛び出た魔物がこちらに向かってくる。

 手綱を握りしめて「ひっ!?」と息を呑み恐怖するしかできないわたしの前に巨大化したサラちゃんが陣取った。


 体中から蛇が生えた不気味な黒い魔物。見たこともない異形に成す術のないわたしの前に頼もしい姿を曝したサラちゃんは、大きな口をパカっと開けて渦を巻く炎を吐き出す。

 それは一直線に魔物にぶつかって、瞬きの間に焼き尽くした。


「す……凄い……」


 地下でモグラの魔物を相手にした時よりも炎の威力が凄い。

 サラちゃんの戦いに驚嘆していると突風と共に大きな影が空を覆う。見上げると巨大な何かが旋回していた。


「あれってもしかして……」


 旋回していたそれはゴオォォォと唸るような音を出しながら下降してきた。赤黒いそれには二つの羽がある。


「ドラゴンなの!?」


 初めてみるけどドラゴンだと分かる。馬よりもはるかに巨大で蝙蝠のような羽を持ったドラゴンだ。

 よくぞそれで飛べると思えるほどにむちむちした体は、ごつごつした鱗に覆われていた。太陽の光を浴びて輝く鱗を美しいと見惚れる間もなく恐怖を抱かされる。


 ドラゴンは戦う騎士や魔物の塊に突っ込む勢いで降下して彼らを蹴散らした。長い尾で払われた何人もの人や馬が空を舞う。


 敵味方なんて考えがないのか、弱者を弄ぶかに容赦なく尻尾で払い、前足の鉤爪に引っ掛けてぽいっと放り投げる。そのせいで食い止められていた魔物たちが飛び出して、魔物の塊がこちらへと押し寄せてきた。

 向かい来る魔物にサラちゃんが広範囲に向けて巨大な炎を吐き出す。けれども数が多くて全部を相手にできない。ドラゴンに負けない尻尾を振るいなぎ倒すけれど、逃れた狼のような魔物がものすごい速さでやってきて、わたしが乗る馬の首に食らいついた。


「きゃあっ!」


 振り落とされて強打する。続いて猿に似た魔物の爪が目前に迫った。殺されると恐怖に目を見開いた瞬間、虹色の光が破裂した。猿の魔物は腕がもげて遠くに弾き飛ばされる。


「なっ、今のはなに?」


 トゥーリの結界だったけど知らされていないので何が起きたのか分からず混乱しかない。周囲を見渡すと怒涛のようにやってくる魔物はサラちゃんを避けていた。この隙に木に登って身を隠そうとしたら、空を舞うドラゴンと視線が合ってしまう。

 空中で静止したドラゴンの縦長の瞳孔がキラリと光った気がした途端、地面に着地したドラゴンが地響きを轟かせわたしに向かって駆けてくるではないか。


「嘘でしょう!?」


 どうしてわたしなのか。まるで珍しい玩具を見つけたようなキラキラした目が私に固定されている。

 巨体から逃げるために木に登るのはやめて森へと駆け込んだ。「ラナ!」と呼ばれた気がして振り返ると、ドラゴンがサラちゃんの首に噛みついていた。


「サラちゃん!?」


 ドラゴンほどではないにしろ巨大化したサラちゃんがポイっと放り投げられる。

 地面にたたきつけられたものの、四つ足で立ったサラちゃんはドラゴンに向かって炎を吹いた。けれどこれまでのような威力がない。ドラゴンも同じく炎を吐き、サラちゃんは押し負けて炎に包まれてしまった。


 きっとサラちゃんの魔力が無くなってきているのだ。サラちゃんと離れていたら魔力を吸収してもらえない。だけど魔物が行きかう戦場に飛び込むのはあまりにも危険だった。


 ドラゴンが天に向かって咆哮し、再びわたしと目を合わせる。どすどすと騎士や魔物を蹴散らして向かいくるドラゴン。その首にこんどはサラちゃんが食らいついた。


「無理よ。サラちゃん逃げて!」


 黒焦げになって人と同じくらいにまで小さくなってしまったサラちゃんは、それでもドラゴンに食らいついて離さなかった。焼けただれて肉が覗いている。いたるところが大火傷だ。

 噛まれたドラゴンは首を振ってのたうっても、サラちゃんは牙を硬い鱗に食い込ませて離れない。


「どうしよう。サラちゃん!」


 サラちゃんがわたしのために戦っている。そう思うと隠れていられなくて飛び出した。

 襲い来る狼の魔物が牙を剥く。そこへ大きな体が滑り込むように立ちふさがり、魔物を一刀両断にした。


「無事か!?」


 真っ青な瞳がわたしを捉える。全身を魔物の血で汚したアシュレイ様が高い位置から見下ろしていた。


「怪我はありません。でもサラちゃんがっ……サラちゃんのところに行きたい!」


 駆けだしたけれどアシュレイ様に阻まれる。「サラちゃん!」と叫ぶのと同時にドラゴンがサラちゃんの尻尾を引っ張ると、ぶちっと音を立てて千切れた。


「いやぁぁぁあ、サラちゃんっ!」


 尻尾を引き千切られたサラちゃんはドラゴンから口を離すと、小さくなりながら落下していく。首から血をだらだらと流すドラゴンは再び咆哮を轟かせると逃げるように空へと消えて行った。


 





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― 新着の感想 ―
ドラゴン 「美味しそうな魔力の香り!」(キラン) サラ 「ワタシのよ!」 ・・・て、感じだったり? さぁ、次回はラナちゃん叱られる、かな? もっと落ち着いてからかな?
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