トゥーリの自信
合流した辺境軍の部隊は魔物に襲われた村へ派遣され、討伐を終えた人たちだった。
北の辺境は魔物の出現が多発する地域だ。
ある意味それが守りとなって隣国からの侵攻がない。
だけど十年周期で魔物の大量発生が起きていて少なくはない犠牲者がでていた。
そんな土地柄だから騎士たちも魔物に特化した訓練をして実戦でも鍛えられている。
屈強な騎士ばかりなので本来なら領内で対応できているのだが、今回はドラゴンが確認されてアシュレイ様が率いる軍に応援要請がでたのだ。
確かにアシュレイ様は一目で物凄く強いと素人目でも分かる見かけをしている。けれど無敵の人なんて存在しない。
実際に体に傷があるし、わたしが知らないだけでひどい怪我をしたこともあるのではないだろうか。
辺境の騎士も人それぞれだけど、アシュレイ様のように大きくて強そうな人がたくさんいた。わたしに話しかけてきた騎士もそうだ。
辺境軍全体からするとそんな騎士がごろごろいるはずだ。なのに彼らだけで対応できない状況になっている。
アシュレイ様も同じく危険に曝されてしまうと考えたら息が苦しくなってしまった。
不安を抱えたまま辺境軍と行動を共にする。ときどき魔物の群が現れたけれど、彼らがあっという間に討伐してくれた。
そんな中、ドラゴンが確認されたと知らせが入った。辺境で最も大きな町でのことらしい。
現れたのは羽のあるドラゴンで、空を周遊して姿を消したけれど、町の近くにある村は炎を吐かれて甚大な被害が出た。
報告を受けた部隊はこれまで以上に急いで本隊を目指すことになった。
「本当にドラゴンがでるなんて。アシュレイ様が心配です」
不安になるわたしにトゥーリは「アシュレイ様なら大丈夫よ」と、ほんの少しも心配な素振りを見せずに言い切った。
「どうしてそう言い切れるんですか」
「だってアシュレイ様はドラゴンなんかに殺られる男じゃないもの」
あっけらかんとしているのは信頼からなのか。
わたしはアシュレイ様の実力を知らないからトゥーリのように楽観的ではいられない。
「トゥーリさんはドラゴンと戦ったことが?」
「ないわよ」
「ないんですか?」
なのに大丈夫と本気で思っているのだろうか。
「ドラゴンは気分屋なの。こちらから攻撃しない限り襲ってくることなんて滅多にないし、大抵は見守りながら森に帰ってもらうのを待つ感じね。村を襲ったのも人を殺すのが目的じゃなくて、ただ炎を吐きたかっただけだと思うわ。吐いた場所にたまたま村があっただけなのよ」
たまたまで村一つが焼かれたというのか。
「それに襲われたとしてもアシュレイ様なら負けないわ。呪いが功を奏して魔力も使える魔法も増えたしね」
呪いは功を奏したんじゃなくて偶然だ。トゥーリの失敗で起きたことなのに、まるで初めから予想して呪いを実行したかの如く言わないで欲しい。
「なによりもドラゴンの首を一刀両断にできる実力があるもの。あの太い首を切れる人なんて滅多にいないわよ。さらにわたしが攻撃補助すれば確実に勝てるわ」
「トゥーリさんって国一番の魔法使いなんですよね?」
「そうよ。ばあちゃんなんかよりずっと凄いのよ」
「ドラゴンを相手にするなんて怖くないんですか?」
「怖くなんてないわよ。だって国一番の魔法使いなんだから」
自信に溢れてにこにこと自画自賛する姿には不安しかない。
わたしは胸にくっついているサラちゃんに触れた。サラちゃんの炎はドラゴンに勝てるだろうか。
不安を抱えたまま馬を走らせていると、前方から黒い何かが押し寄せて来るのが見えた。周囲から「魔物だ!」と声が上がって、後方を走っていた騎士たちが速度を上げてどんどんわたしを追い越していった。
彼らの手には剣や斧槍といった武器が握られている。
「外れるわよ!」
並走していたトゥーリがわたしの乗る馬の手綱を引いて進路を変える。魔物の群に突っ込まないためだ。
前方で戦うのは行動を共にした騎士たち。けれど目を凝らすと彼らだけじゃないと気づく。
魔物の大群は四方八方から馬に追われていて辺境軍に囲われる形になっていた。その中にはアシュレイ様が率いる部隊もある。
「わたしは行ってくるわ。ラナはここにいて。何かあったらサラマンダーに守ってもらうのよ。いいわね?」
「分かりました」
遠くに垣間見えるアシュレイ様から目を離さずにしっかり頷く。わたしが行っても邪魔になるだけだし飛び込む勇気もない。
離れているのに魔物たちの咆哮が轟く。
馬は嘶き、勇敢な騎士たちの声が上がっていた。赤く舞うのはどちらの血なのか分からない。取り囲まれた魔物が這いずり出て向かってくるのを、駆けるトゥーリが何かしらの魔法を使って地に沈めた。




