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ドラゴンが出るらしい


 トゥーリとの道程は順調に進んだ。

 問題があるとするなら、わたしに乗馬能力がないせいで馬を全速で走らせることができないくらいだった。

 アシュレイ様が率いる騎士団との距離は開くけど、トゥーリからすると「このくらいは許容範囲」らしい。彼女がわたしに気を遣うことはなさそうなので言葉を信じることにした。


 そして何よりもトゥーリがいることで、少ない旅の装備でも事足りる点が大きかった。

 宿に泊まるなんてしないので初めての野宿に不安があった。

 けれどトゥーリが繰り出す人や魔物の襲撃から身も守るための結界は高性能で、本来の役目に加えて結界内は快適な温度で保たれていて、気温が一気に下がる夜でも薄い寝袋一つで寒さに震えることはないし、硬い地面もふかふかにしてくれるから体が痛くなることもない。


 さらにトゥーリは汚れから身を守る魔法なんてものを開発していたらしく、お風呂に入らなくても大丈夫なのだ。

 気分的にすっきりしないけどとてもありがたかった。

 そんな中で唯一問題があるとしたら食料だ。


「食べ物だけはどうしようもないのよね。町や村で補給するのも面倒だしなぁ。今はまだアシュレイ様に見つかりたくないから、いくつかに分かれて行動している辺境軍の一つと合流しようかな。ラナの素性は隠したいから……サラマンダー使いってことにするわね」

「分かりました」


 戦闘能力なんてないのにサラちゃんのお陰でできる人っぽい役名がついた。でも自分から名乗るのは恥ずかしいので言わないことにする。

 出発して二日しか過ぎてない。けれどわたしはすっかりトゥーリを信用するようになっていた。


 初めて立ち寄った町で携帯食を大量に買い込む。わたしはお金を持ってなかったのでトゥーリが出してくれた。

 トゥーリは食が寂しいと嘆いていた。戦いに慣れているのか食にこだわりが強いのかどっちだろう?

 わたしはアシュレイ様が心配で食事を楽しむなんて気持ちになれない。


「討伐なんて泥臭い仕事の楽しみって食べることくらいしかないのよ。まぁラナもそのうちわたしの気持ちが分かるようになるわ。歯が折れそうなくらい硬いパンなんて人間の食べ物じゃないもの」


 確かにトゥーリの言うとおり、歯が折れるどころか凶器になりそうな硬さだ。

 アシュレイ様のお屋敷で贅沢に慣れてきたこともあって、度々トゥーリの文句を耳にしていると、気にしてなかったことが気になりだしてくる。


「煮炊きができるといいんですけどね」

「だよね。辺境軍と合流したら食事もまともになるんだけど。大鍋で料理するから意外と美味しいのよ」


 なかなか合流できないのはわたしのせいなのにトゥーリは責めない。とんでもなく非常識な魔法使いだと思っていたけど、もしかしたらそうじゃないのかもと思い始める。

 そうだよね。なにしろアシュレイ様が一緒にいるくらいなのだから。アシュレイ様が認めている人が頭のおかしな魔法使いなわけがないのだ。


 そうこうするうちに後を追って七日目。ようやく辺境軍に所属する部隊に追いついて合流を許可された。

 そこには調理担当の騎士がいて、大鍋いっぱいの煮込みが作られていた。

 分けてもらったそれは塩味が効いていてとても美味しくて。久しぶりの温かい食べ物に少しだけ気持ちが落ち着いてくる。そうしていると大柄な若い男性に話しかけられた。


「あんたは魔法使いじゃないんだろ? なのにサラマンダーを使役しているなんてどうやったんだ?」


 そう言いながら彼は地面に直接腰を下ろした。目の前に座った彼はすでに食事を終えていて、お茶が入ったカップを手にしている。


「頂き物なんです」

「サラマンダーを?」


 目の前に座った彼はとても不思議そうな顔をしていた。

 辺境で戦うことを仕事にしている人からするとサラマンダーは駆除対象なのだろう。


「危なくないのか?」

「大丈夫ですよ」


 胸に引っ付いているサラちゃんを指でつつくと指先をかぷっと甘噛みされる。それを見ていた彼は驚いて息を呑んだ。


「火傷しねぇのか。ちょっと触ってみてもいいか?」


 一見粗暴に見える彼の瞳は少年のように輝いていた。いろんなものに興味を示していた幼いアシュレイ様を思い出す。

 わたしはサラちゃんを手のひらに乗せて、「この人が触ってもいいかな?」と問いかける。特に何も反応しなかったので彼の前に差し出した。


「多分ですけど大丈夫だと思います」


 無効化されているから大丈夫だと言っていたし。害をなすような人じゃなければ問題ないだろう。

 彼は注意深くゆっくりと指を近づけると、ちょんっと垂れ下がったサラちゃんの尻尾に触れる。そうしてぎゅっと拳を握ってから、もう一度指先で、今度はサラちゃんの頭に触れた。


「うおっ、柔らけぇ」

「ぷにぷにして可愛いですよね?」

「俺たちにとってサラマンダーは厄介で遭遇したくない獰猛な魔物の一つなんだが……こうしているとただのトカゲみたいだな」

「そうですね。でも戦う時は大きくなって炎を吐くんですよ」

「その炎と尻尾に翻弄されるんだが味方に付くとなると心強いな。なにしろ今回はドラゴンの出現も確認されているからな」

「ドラゴン……ですか?」


 サラマンダーを知らなかったわたしでもドラゴンは知っている。魔物の中でも大きくて強くて獰猛で、ひとたび町に出現すると多大な被害が出ると言われているのだ。

 サラちゃんと同じで炎を吐くけど、その威力はひと吐きで村を焼き払うとまで言われていた。


 ドラゴンを相手にするなんて聞いていない。アシュレイ様の大丈夫なんてわたしを安心させるためだけの真っ赤な嘘だと気づいた。





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― 新着の感想 ―
ラナちゃん・・・ トゥーリを信用するの、早くないかい? 「大丈夫」が真っ赤な嘘っていうのも、心配だからだろうけどそこで怒っちゃだめよ。 そもそもラナちゃん判断で大丈夫なら、呼び出されないだろうしね。…
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