北の辺境へ
結論から言うとわたしは置いていかれた。
客観的に見て当然だ。騎士でも魔法使いでもないただの女なんて邪魔になるだけだから。
でもわたしはアシュレイ様に魔力を渡すことができる。サラちゃんだっているし、他の人にも魔力を渡せる可能性だってある。
なのにアシュレイ様は、「君の一部が私以外の男のものになるなんて許せないんだ」と言ってわたしを連れて行ってはくれなかった。
深夜に北へと出発した一行を見送る。辺りが暗すぎてすぐに見えなくなってしまった。
飛び出した時に使用人が渡してくれたのは小さくまとめた着替えや携帯食だった。慌てて詰めたのではなく前もって準備していたものと思われる。彼らもわたしが行くことに賛成しているのだ。
「なのにどうして連れて行ってくれないのよ……」
わたしの身を心配してくれてのことだとしても、わたしだってアシュレイ様が心配だった。
北の辺境には特別獰猛で危険な魔物ばかりがいると聞く。そんな魔物が大発生したのだ。どんなに強くて戦いに慣れていたとしても危険度は増すはずなのに。
自分でも足手まといになることは分かっている。だからその場にいたいなんて言わない。なるべく側で待機して、もしもに備えて魔力が渡せたら……そう思っているだけなのに許してくれなかった。
こっそり後をついていこうか。でも旅慣れてないわたし一人ではそれこそ無謀だった。女の一人旅なんて推奨されない。軍の後を追うとしても、乗馬経験の浅いわたしではあっという間に引き離されてしまう。
「結局はなんの役にも立てないのね」と嘆いていたら。
「そうでもないわよ」と、背後から明るい声がかけられた。
振り返ると真っ黒なローブを着て赤い髪をフードで隠した怪しい装いのトゥーリが笑顔で立っていた。思わず一歩後ず去って身構えてしまう。
「トゥーリさん……そうでもないってどういうことですか?」
「きっと役に立つわ。だって北の辺境で大量発生した魔物はいつにもまして獰猛らしいから。絶対にラナの力が必要になるわよ」
この自称国一番の魔法使いは信用できないけど、今のわたしにとっては欲しい言葉をくれる人になっていた。
「でも置いていかれました」
「大丈夫よ、わたしが連れて行ってあげるから」
「トゥーリさんがどうして?」
「見て、謹慎が解けたの。魔力の制限も拘束も受けてない!」
トゥーリは自慢気に胸を叩いたけど、見てわかるのはぐるぐる巻にされてないことくらいだ。
「しかもラナを連れて行けってサハール殿下直々の命令よ。王太子命令ってこと。アシュレイ様は文句が言えないわ!」
「王太子の命令って……本当なんですか?」
「本当よ。今回のわたしの任務はあなたを北の辺境へ連れて行って無傷で帰還させること。やり遂げたらこれまでの失態は全部帳消しにしてもらえるの。凄いでしょ!」
トゥーリの失態が全て帳消しになるのは良くないと思う。だけど今のわたしに選択肢はなかった。
「そもそもわたし抜きで戦闘に出るなんて無謀なのよ。わたしとアシュレイ様とガウディは三人で組んでるの。ラナには分からないかもだけど、魔法使いが抜けるのはかなりの痛手なのよ。それもこれもアシュレイ様がラナの魔力を取り込めるようになったからだろうけど、使ったらなくなるってことを忘れてるんじゃないかしら」
同意したくないけど、確かにトゥーリが指摘するとおりだと思う。
アシュレイ様はもともと魔力の器が小さいのだ。わたしの魔力との相性が良くて戦闘能力が上がるのはいいことだけど、源となるわたしを置いていくのは間違いだと思う。
王太子はアシュレイ様がわたしを置いていくと予想したのだろう。同行者にトゥーリを指名したのは正解なのか分からない。
それでもわたしはトゥーリについていくしかなかった。
きっと歓迎されない。でも心配でたまらないのだ。
「そんなに緊張しなくてもいいのよ。アシュレイ様に見つからないように距離を取りながら進むからね!」
魔物が大発生した辺境に行くというのにトゥーリは明るい。
「トゥーリさんは怖くないんですか?」
「わくわくしかしないわ」
頼もしいのかそうではないのか。
わたしは慣れない馬に揺られながらトゥーリと二人で北の辺境を目指した。




