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ようやく気づいたこと


 突然やってきてあっという間に去って行った王太子御一行を見送ったあとも、わたしはしばらくなんの反応もできずにアシュレイ様に抱っこされたままになっていた。


 アシュレイ様から「大丈夫?」と声をかけられても返事ができない。びっくりしすぎて思考が付いていかずぼんやりしていた。


 わたしの意識を元に戻したのはサラちゃんだ。手の中で尻尾をばしばししていたので開放すると、ぴょんと地面に降りて「げぽっ」と音を出して黒煙を吐いた。


「ごめんねサラちゃん。大丈夫?」


 アシュレイ様から下ろしてもらい、しゃがんで様子を窺う。

 サラちゃんは何度かげっぷを繰り返して黒い煙を吐き出した。

 炎を吐くのを我慢して口の中で不完全燃焼を起こしてしまったのか、半眼で不満そうにしていたけど、げっぷが止まると四本足でのそのそとよじ登ってくる。


「ごめんね。でもあの人は攻撃しちゃ駄目だよ」


 手で押さえなかったら王太子に炎を吐いたかと思うと背筋が凍り付く。サラちゃんが罰を受けて処分されたら悲しい。

 サラちゃんが胸元に戻ってきたところでわたしは「はぁ……」とため息を漏らした。


「これっていったいどういうことなの……」


 あんなに悩んだのに。アシュレイ様を責めたりもしたのに。全部無駄だったってことなのか。

 ただわたし一人が何も理解していなかっただけだ。


「ラナは貴重な存在なんだ」

「貴重って……」

「ラナから得られる魔力は私の少ない器を無限と言っていいほどに満たしてくれる。それは私個人の戦力を何倍にも増幅するということなんだ」

「だからって、高貴な人との結婚がすんなり了承されるなんて思えませんでした」


 しかも相手は王族。次の王になる王太子からすると、弟が平民と結婚するなんて絶対に許しそうにないと思うのに。

 王太子の言葉は悪かったけど、少しもなんとも思っていない様子だった。どちらかというと歓迎されている感じすらしたのだ。


「私はラナの魔力が欲しいから妻に望んでいるわけじゃない」

「それは分かりました。疑ってごめんなさい。だけど王命だなんて……本当なんでしょうか?」

「本当だ。憂いなく手に入れるためにラナの貴重性を進言したのは私なんだ。ごめん。あの時の私は浮かれていたから」

「憂いなくって……」


 身分のある人との結婚なんて心配や不安しかない。だって家族になるってことだから。生まれも育ちも違うからそもそもの常識が異なる。


「アシュレイ様にとってわたしの魔力は、貴賤結婚なんてものともしないほどの価値があるものなんですか?」

「たとえ魔力がなくても私はラナが欲しい。でも現実にラナの魔力から受ける恩恵は量り知れないものだ。戦いになれば格段に差が出る。そしてラナの魔力は私以外にも効力があるだろう。だから私はラナの魔力について公に吹聴したくない」


 アシュレイ様は辛そうに俯いて、ぎゅっと拳を握りしめた。


「皆がラナを欲しがるだろう。単に側にいて魔力を分け与えるだけなら許せるが、他の男がラナに触れるのを想像すると胸が痛み、凶暴な考えが浮かんでしまう。恐らく独占していると解釈されるだろうが、それでも私はラナを独り占めしたい。抱きしめるのも唇を合わせるのも私だけであって欲しい」 


 なるほど、そういうことになるのかとようやく納得した。

 わたしの持っている魔力は人に流れる。だからサラちゃんもわたしの魔力を食べることができるのだ。

 魔力の器が小さいというアシュレイ様にとって、わたしは彼の魔力を増幅させる貴重なもの。平民女が王族への嫁入りを簡単に許されるほどに貴重なのだ。


 これって相手がアシュレイ様だから許されている状況なのかもしれない。

 もし何もない状態で魔力の貴重性が露見していたら、効率よく魔力を補給するために不特定多数の人たちと接触を持たされることになったかもしれないのだ。

 そう考えるとぞっとした。

 側にいるだけでいいなら問題ないけど、効率や即効性に重点をおくなら口からになってしまう。血液を採られるかもしれない。そうなったらわたしは切り刻まれて人としての尊厳まで奪われてしまうのではないだろうか。


 途端に怖くなった。

 アシュレイ様との関係が許されるのだと知って浮かれる前に、怖い現実に直面してしまった。蒼白になるわたしの肩にアシュレイ様の手が乗る。


「怖いことを考えてない?」


 心配そうに青い瞳が揺れている。わたしは大丈夫だと言いたくて首を横に振った。


「他の男が触れるなんて絶対に許さない。だから安心して、大丈夫だよ」


 何も言っていないのにどうして分かるのだろう。

 わたしはアシュレイ様にぎゅっと抱き着いた。わたしだってアシュレイ様以外に触れられたくない。





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