未来のために(アシュレイ)
サラの攻撃で焦げてしまった髪をガウディに切ってもらう。
ずいぶんと有能で主に忠実なサラマンダーだ。想像したよりずっと。私の使役能力は決して高くないので、これもやはりラナの魔力のお陰だろう。
防御の甲斐もあるが、サラの体が小さかったことが幸いして大した被害はない。しかしラナがとても驚いていた。「綺麗な銀色の髪がっ!?」と嘆いてもいたが、多少短くなる程度だから問題ない。逆にこれを理由にすっきり短くなって乾きやすくなるだろう。
それにしても昨夜は危うかった。サラが止めてくれなければラナに婚前交渉を強いてしまうところだった。
サラはよい働きをしてくれる。この調子で私の欲望からラナを守って……いや、私は敵ではないぞ。風呂はともかく同衾は許してくれたじゃないか。次に夜訪れるときは無害を装うために絵本を持って行こう。
ラナは責めることなく謝罪を受け入れて、更には手を握り返してくれた。私の気持ちに応える準備ができているとの意味だろう。
だがそうだとしてもやはり順番は守らなければならない。私のせいでラナに瑕疵をつけたくない。
これから城に出向いて王と王妃にラナを妻にする許可をもらうつもりだ。すでに老師が報告しているだろうが、ラナの素晴らしさは私自身が伝えたい。
それに三番目とはいえ王子という身分にある以上、きちんとした手順をふまなくては様々な問題が起きてしまう。二人の未来を他人任せにしたくない。
ラナには「ちょっと実家に報告してくる」としか言っていない。王と王妃の許可を得て受け入れ準備が済むまでは秘密だ。
なにしろラナは生まれも育ちも平民だから、城に連れて行ったりしたら驚いて逃げられるような気がする。
プロポーズもそれまでお預け。
だからラナを置いて行くことになる。
私の魔力の器は小さいが、その小さな器には凝縮されたラナの魔力が詰まっていた。
ラナの魔力は不思議なもので私の魔法使用領域をみるみる上昇させている。これが相性というものなのだろう。
私とラナは出会うべくして出会ったということなのか。
まぁそんなわけで、ラナを守るために屋敷を結界で包囲することにした。
ただ私が未熟だから結界への出入りができなくなるのが難点だ。
トゥーリや老子なら解除できるが、今の私の結界はそこいらの魔法使いでは解除不可能なまでに性能が上がっているのだ。
だからラナが屋敷から出て行く心配はない。
……ではなくて、外部から侵入される心配がない。
それでも大切なラナを一人にするのが不安でガウディを置いていくことにした。
ラナはガウディのことを好ましく感じている。それだけでなく困ったことがあると視線で頼ろうとする。頼られるガウディに嫉妬してしまうが背に腹は代えられない。
「私が戻るまでラナを頼むぞ……。物騒だろう、ラナが怖がる。いい加減に鎧を脱いだらどうだ?」
「いつ殿下の攻撃を受けるとも限りませんので」
私が元の姿に戻ってからガウディは兜までしっかりと被って急な攻撃に備えていた。今の私から魔法で攻撃されたら無事では済まないからだ。長年側で私を導いたガウディには簡単に気持ちを読まれてしまう。
「大丈夫だ、自制できる。お前に何かあればラナが悲しむしな」
「自制できず昨夜はサラに止められたようですが?」
返す言葉がない。ラナは魔力の受け渡しだと思ったようだが、あれは完全に欲望に負けた結果だ。
だがラナも悪い。私の恐れや不安をたったひと言で取り除いて浮かれさせるのだから。
それにしてもガウディは全身を甲冑で覆っているのにうまい具合に髪を切ってくれる。本当に何をやらせても器用な男だ。




