両思いとは?
アシュレイ様の呪いが解けて本当によかった。男女の契りを結ばなくてはいけないのだと思い込んでいだけに、重責から解放されて力が抜ける。
幼気な少年の姿をしたアシュレイ様に強制せずにすんでよかった。心に傷を残すようなことをせずにすんでホッとした。同時にアシュレイ様が本来の姿を取り戻せたのが嬉しくて安堵の涙が止まらない。
歓喜のあまり飛びついてしまった。そんなわたしをアシュレイ様がそっと抱きしめてくれる。
少年から大人の男性に戻ったアシュレイ様の体はとても大きくて、鎧ともいえる鋼のような筋肉に覆われていた。
逞しくて、とっても頼りになって安心感があった。刺客がやってきても薙ぎ払える素晴らしい肉体をしている。庇護される対象じゃなく、弱者を守る騎士に相応しい姿に感動すら覚えた。
解呪の後に待っているのはお別れだ。
ほんのひと月ほどの期間だったけれど、温かみのある疑似家族を体験させてもらえた。不安から始まった生活は手放し難い時間になった。
家族のいない一人ぼっちのわたしにとって夢のような時間だったけど……それも今日で終わりだ。
寂しいけど、これでいいのだと自分に言い聞かせる。
大人に戻ったアシュレイ様にいつまでも抱きついているのはよくない。名残惜しいけど離れようとした。だけどわたしを抱きしめ返してくれた腕はびくともしなくて離れることができなかった。
そんな中でアシュレイ様が驚くべき告白をした。
わたしとアシュレイ様の間で行われた魔力の受け渡しは「少年の姿を維持するために必要だった」というとんでもない事実。
つまりアシュレイ様の体はとっくの昔に元に戻っていたということだ。
それを聞いてわたしは全身から血の気が引いた。
少年の姿でいるのにはなにかしら崇高な理由があったのだろう。必要だったのならなんの問題もない。
だけどね、わたしはアシュレイ様を十代前半の少年と認識していたのだ。アシュレイ様がわたしを慕ってくれていたとしても、わたしが幼気な少年と肉体関係を結ぼうとした事実は消えない。
冷静になればなるほど犯罪だと認識できる。
そう、犯罪なのである。
また刺客に襲われたらと考えたら怖くて、解呪は絶対に必要だと強く感じたのだ。だから引き延ばすのは止めて、多少強引だったけど事に及ぼうとした。
だからアシュレイ様は魔法を使ってわたしを眠らせたのか!
だって身も心も大人に戻っているのだもの。
魔力のやりとりは必要で仕方なくやったのだとしても、不要な解呪のために契りを結ぶ必要なんてこれっぽっちもないし、嫌だったに違いない。
だから眠らせたのだ。
いまの状況はもしかして……「少年に手を出しちゃう悪い大人だってバレちゃってたってことなの!?」と思わず叫んでしまった。
わたしはアシュレイ様から少年趣味の悪い大人認定されてしまったのだ。
襲いくるわたしに対して、拒絶の声を上げるんじゃなく魔法で眠らせたのは、言葉が通じる相手じゃないと判断されたからだろう。
違う、違います。悪い大人かもしれないけど違うの!
「違いますからっ。わたしには幼気な少年に卑猥なことをするような性癖なんてありません。本当にアシュレイ様が元に戻っているなんて知らなかったんです!」
お願いお願いお願いだから信じて!
一歩間違えたら王子様に性的な悪戯をするやばい女認定されて投獄されかねない。
焦るわたしの背を「そんなことは分かっている」とアシュレイ様が優しく撫でつける。
「分かっているよ。ラナは自分の身を投げ出して私を守ろうとしてくれた。こんなにもか弱いのにも関わらず、勇気のある素晴らしい女性だ。それほどの想いを私に向けてくれている君の気持ちは分かっている」
「本当ですか!?」
「本当だ。ラナは私が好きだろう?」
「そ……それはもちろんです、けど……」
一瞬認めていいのか迷った。認めたら少年趣味だと追及されるのではと疑ったのだ。
だけどアシュレイ様は顔をほころばせて、それはそれは嬉しそうに「私もラナが好きだよ。私たちは両思いだ」と言ってくれる。
あれ?
両思いって……。
う〜ん、ちょっと違う気がするけど……わたしとアシュレイ様は大好きを言い合う間柄だったし、間違いってわけでもないのかな?
って思っていたら。
しおしおになっていたトゥーリが突然声を上げた。
「なぁ〜んだ、解呪に成功したのなら問題ないじゃない!」
縄でぐるぐる巻きにされているトゥーリは、部屋に入って来たときから一転、満面の笑みを浮かべてきらきらしていた。
「みんなわたしを責めたけど、アシュレイ様が嬉しそうにしてるなら万々歳じゃない。両思いの相手も見つかって嫁問題も解決。結局は呪いをかけたわたしのお陰よね。これでお咎めなし決定!」
なんだか分からないけど、得意満面でものすごいことを言っている。
アシュレイ様に抱きしめられたまま唖然としていたら、老師と呼ばれる妖艶美女が「戯けっ!」と錫杖でトゥーリの頭を思いっきり殴りつけたものだから、頭が切れて血が噴き出した。
「いったぁ〜い! ばぁちゃん何するの!?」
「貴様のせいで戦争になるところだったのだぞ。孫とはいえ縛り首にしてやるわっ!」
「戻ったんだからいいじゃない。それにわたしはアシュレイ様に嫁を準備した功労者でもあるのよ。よくやったと褒められるべきだわ!」
「何が功労者じゃ馬鹿たれめっ!」
「国一番の魔法使いに向かって馬鹿たれはないでしょ!」
「国一番は老師たるわたしだ!」
「ばぁちゃん耄碌してるよ。さっさと引退しなよ」
「貴様のせいで引退できんのだよ馬鹿孫がぁっ!」
トゥーリと妖艶美女は罵り合いながら殴る蹴るの取っ組み合いを始めてしまった。
びっくりして凝視していたら、「ここは危ないから避難しよう」とアシュレイ様から横抱きにされて連れ出される。
「ちょ、ちょっと待って。トゥーリの頭からどくどくと血がでてますよ!?」
「自分で癒やせるから気にしなくていい」
「いやでもっ!?」
何がなんだか分からないまま、わたしは寝巻き姿でアシュレイ様に抱っこされたまま連れ出された。




