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翻弄される


 アシュレイ様の手を引いて部屋に入る。黙ってついてきてくれた彼は導かれるままベッドに腰を下ろした。


 昨夜のアシュレイ様は枕を抱きしめて不安そうにしていた。べそをかいて、風の音が怖くて眠れないと助けを求めた小さな男の子はもういない。


 たった一日しか過ぎていないのに物凄く時間が経ったような気がする。

 洗濯をしてからピクニックに出かけて、釣りを楽しんで刺客に襲われて。モグラの穴に逃げ込んで、襲い来るモグラと戦った。


 わたしは死ぬのを覚悟したけど、アシュレイ様とサラちゃんのお陰でこうして今も生きている。

 二度とアシュレイ様の命に危険が及ばないように、次に起きても対処できるように、わたしは今夜アシュレイ様の呪いを解いてみせるのだ。


「アシュレイ様は自分が呪われていることをご存じですか?」


 アシュレイ様の隣に腰を下ろして訊ねると、「理解している」と答えが返ってきた。


「解呪……呪いを解く方法ですが、わたしと契らなくてはいけないそうです。契るって意味、分かりますか?」


 アシュレイ様がゆっくりと視線を向けた。恥ずかしさに赤く染まっていた肌は元に戻っていて、とても真剣な眼差しを向けられている。


「分かっている」


 たっぷりと時間をおいて答えたアシュレイ様は拳を握りしめていた。そんなに強く握ったら爪で手のひらを傷つけてしまう。そっと触れるとアシュレイ様はびくりと肩を弾かせた。


「触れられるのは嫌ですか?」


 五歳児じゃなくなったのなら無遠慮に触れられるのが嫌かもしれない。これまで純粋な好意を示してくれたのは、わたしがアシュレイ様にとって害のない大人だったからだ。

 でも今からは違う。いけないとこをしようとしているのだと、成長したアシュレイ様は分かっているのだ。


「ラナ、ごめん。私は今夜ラナとは契れない」

「そうですよね、嫌ですよね」

「嫌だと言うわけではっ」

「大丈夫です、無理に襲ったりしませんから」


 わたしは焦るアシュレイ様の言葉を笑顔で止めた。

 今のアシュレイ様なら、ちゃんとした意思を持ってわたしを払いのけるなんて簡単だ。だけど心が成長した分、女性に暴力的なことや恥をかかせることはできないかもしれない。


 だからわたしは慎重になる。

 無理に事に及んでも傷を残して、今後の女性関係が大きく阻害されてしまう原因を作りかねないから。

 それでも解呪は重要なことだ。可能かどうかを確認しなくてはいけない。


「ただ今日のように敵に襲われた時のことを考えると、きちんと呪いを解いておかないと命に関わります」

「私は戦い方を知っている。私を殺せる奴なんてそうそういない」

「そうなのですか?」


 それが事実ならとても頼もしいけれど、今のアシュレイ様は細身の少年だ。


「だとしてもわたしは不安です。ねぇアシュレイ様。アシュレイ様は今もわたしを好いてくれていますか?」

「もちろんだ。私は何があってもラナが好きだ。どうか信じて欲しい」


 アシュレイ様が縋るようにわたしの手を取った。二人手を取り合って互いに見つめ合う。


「でしたらわたしのために大人に戻る勇気を持ってくれませんか?」


 わたしは今日起きたことが怖かった。無事だったけど次もそうだと限らない。アシュレイ様に何かあったらと思うと怖かった。

 だからアシュレイ様を守るために悪い大人になることにした。多少強引だけど、彼の心が傷つかないよう細心の注意をして様子を窺う。


「やり方はご存知でしょうか?」

「ごめん。先に魔力を貰う」


 謝罪と同時にアシュレイ様に口を塞がれた。勢いがついたせいでベッドに押し倒されるかたちになったけど唇は離れない。


 アシュレイ様は拒否したけど、わたし相手に契れないわけでもなさそうだ。

 これはただの魔力の受け渡しかもしれない。地上に出てまだしてなかったので、今夜何か起きた時のためにアシュレイ様には十分な魔力が必要だ。

 だからこれはただの魔力の供給。でも好機と受け取ってアシュレイ様の背に腕を回した。


「駄目だ、この身体では契らないと決めているのにっ」


 貪るように口づけながら苦しそうに漏らす。わたしはといえばやっぱり慣れなくて、主導権なんて取れずにされるがままになっていた。

 気持ちいいのと苦しいのとで酸欠になりそうで、アシュレイ様の言葉をきちんと理解できない。

 

「ああ、なんてことだ。魅力的過ぎて冷静でいられない。謝罪すると決めていたのに止まれない!」


 アシュレイ様が謝ることなんて何もないのに、苦しそうに吐き出しながらも口づけは続いた。

 組み敷かれたまま、舌を絡め取られて甘い吐息が漏れてしまう。お腹の下が切なくてもぞもぞして、何があるのか分からないのにその先を求めたくなった。分からないそれから逃げ出そうと足がシーツを掻く。

 もがくわたしをアシュレイ様は押さえつける。熱い手のひらで肌を撫で、離れた唇が首筋に吸い付く。


「ごめん」


 耳元で唸るような音を漏らしたアシュレイ様が謝罪する。とても辛そうな声。くったりして荒い息を漏らすわたしは行為に翻弄されて、慰めるどころか何も答えられなかった。


「ごめんラナ。絶対に明日話すから今夜だけお願い」


 アシュレイ様の熱い手のひらに視界を奪われた途端、わたしは深い眠りに吸い込まれた。


 




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― 新着の感想 ―
逃げた? いや、戦略的撤退というやつか? まぁ、ベッドの上では冷静な会話はちょっと無理でしたね。 どんまい。
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