再びの同衾
熱いお風呂に浸かって冷えた体を温める。サラちゃんは頭の上。鏡で確認すると下瞼を半分引き上げて半目で可愛い。
けど今はそんなサラちゃんの姿を目にしても癒されなることはない。なにしろアシュレイ様のことが気になって仕方がないのだ。
まさかの刺客登場で波乱の一日だった。アシュレイ様が釣り上げた魚は釣り竿ごと水の中だし。地下に魔物が住んでいたのにも驚きで。
まさか自分がこんなふうに命の危険にさらされる日が来るなんて想像すらしていなかった。
いやいや、そんなことよりもアシュレイ様の呪いについてだ。
見た目は美少年のままだけど……というかキリっとした表情のせいで美少年値が急上昇しているけれどもっ……変わらず美少年のまま。ただ中身はかなり大人になっていると予想している。
でもどうして急に戻ったのかな?
見た目はそのままなのはどうしてなのだろう。
心と体が同時に成長するものでないのは、出会った頃もそうだったから呪いの世界では常識なのかもしれない。
それよりも中身が急成長した理由だ。
心当たりはある。昨夜一緒に寝たのが原因じゃないだろうか。
中身がある程度成長しているなら、きっと元に戻りたいに違いない。でもアシュレイ様は優しい。純真無垢な子供の心のままならともかく、物の分別がついてしまうと自分からは言い出せないだろう。
「ここはわたしから誘わなきゃだよね」
美少年のアシュレイ様と契るのには勇気がいるけど、アシュレイ様の協力があれば可能かもしれない。それに契らずに一緒に寝るだけでも何かしら得られるかもしれないし。
心だけでも二十四歳の完全なアシュレイ様に戻してあげられたなら。それが同衾するだけで叶うかもしれないならやってみる価値はある。
それでも自分から言い出す勇気が持てないでいると、アシュレイ様から「話がある。時間いい?」と誘われた。
食事を終えて片付けも済んでいるからなのか、ガウディはいつの間にかいなくなっていた。
いつもは三人で寛ぐのに。そうでなくても声掛け無くいなくなるなんてことはしない。これはもしかしてとはっとする。
わたしの入浴している間にアシュレイ様とガウディとで相談したのだろう。きっとガウディがサポートしてアシュレイ様の背中を押してくれたのだ。よかった。これで一方的に美少年を襲う女にならなくて済む。
わたしはアシュレイ様を元の姿に戻すために一線を越えなければならない。
同衾だけでなんとかなるかもしれないなんて希望的観測じゃ駄目だ。だって現実にアシュレイ様の心と体はちぐはぐなのだもの。
トゥーリの指示通りにしないとアシュレイ様が元に戻る時間が遅くなってしまうだけだ。その間にまた命を狙われるかもしれない。
今回は大丈夫だったけど、細身の美少年ではなく、騎士としての能力を存分に発揮できる体を取り戻してもらわなくては。
わたしは「もちろんです」と返事をしてソファーに腰を下ろした。
アシュレイ様も隣に座ったけど、もう膝に乗ってきたり「大好き」と笑顔で抱き着いてくれたりしない。ぴったりと引っ付くためにすり寄ったりもない。
昨日までの生活がなくなって寂しいと感じた。
隣に座ったアシュレイ様は「その……」と言い出したものの言葉が続かず、長い銀色の睫毛を伏せて口を引き結び、とても緊張しているようだった。
美少年の苦悩する姿もなんて美しいのか。
神様はとんでもないものを作り出したな……と見惚れてしまうけれどこれではいけないと首を振る。
わたしは先を続けられずにいるアシュレイ様の代わりに、大人の女性として主導することにした。
そもそもわたしがお誘いするべきことなのだ。
「アシュレイ様、もしよければ今夜も一緒に寝ませんか?」
「え?」
アシュレイ様が顔を上げる。澄んだ湖の底よりも青くきらめく蒼石が見開かれていた。びっくりしているみたい。直接的に言い過ぎたかな?
「急なのですが……その……トゥーリさんに教えられた解呪を試せたらと」
青い瞳が戸惑うように揺れている。さらに白い肌は見る間に赤く染まっていった。
この現象にアシュレイ様はわたしが想像するほど大人に戻っていないのではと思い至る。何をするのかは分かっているけれど心は穢れを知らないのだ。そうだよ、絶対にそう。
大人の男性ならともかく美少年に何を言ってしまったのか。ああでもガウディのサポートはあったはずだ。トゥーリもガウディもわたしの背中を押しているし、アシュレイ様も解呪を望んでいるはず。
自分で自分を鼓舞してわたしは最後まで一気に言い切った。
「もし嫌だったらすぐに止めますし、わたし自身もできるかどうか分からないのですけどっ。あの……いかがでしょうか?」
わたし自身も初心者だし、途中で嫌だとなることも十分あり得た。あくまでもアシュレイ様がよければ、嫌じゃなければだ。彼の心に傷を残すようなことだけはしてはいけない。
アシュレイ様は大きく目を見開いて顔を真っ赤に染めていた。だけどわたしから目を離さずに、深くしっかりと無言で頷く。
「あ……ありがとうございます」
拒絶されていたら一人大反省会になるところだった。とりあえず一安心。
アシュレイ様だけじゃなくてわたしも真っ赤になっているだろう。体中が燃えるように熱い。
「行きましょうか」と手を差し出したら繋いでくれた。アシュレイ様の手もわたしと同じくらい熱かった。




