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こんなことになった理由



 笑顔を向けたトゥーリは「ごめんね。全部わたしのせいなの」と、謝罪と共に説明を始めたけど、彼女の表情はちっとも申し訳なさそうじゃなかった。


「もう気づいてると思うけど、あなたに引っ付いてるのはアシュレイ様。ディード王国の三番目の王子よ」

「王子様なんですか!?」


 まったく気づいてなかった。びっくり仰天だ。

 へぇ……見た目通りの王子様なのか。

 わたしのお腹に両腕を回してにこにこしている美少年を凝視してしまう。


「王子様、なの?」

「うん。ボクは王子様で、ラナはボクのお嫁さん」


 キラキラの瞳が眩しい。言っていることは頓珍漢とんちんかんだけど。

 それでも見た目はまさに王子様だ。

 けれども……。


「第三王子のアシュレイ様は二十代半ばでは?」


 いくら貧乏で天涯孤独の平民だって王家のメンバーくらい知っている。

 それにわたしは町で子供相手に教師をしているのだ。学校でも王家のことは教える。三番目のアシュレイ王子は二十四歳のはずだ。

 対してわたしにまとわりついている少年はどう見ても十代前半。騙すならもっとましな嘘をつくべきだ。

 怪しい目を向けたわたしにトゥーリは「ふふっ」と得意げに笑った。


「今はこんな形だけどアシュレイ様は正真正銘、二十四歳の男盛りなのよ!」


 そう自慢げに声高く告げたトゥーリは、アシュレイ……様の柔らかそうな癖のある銀髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜた。アシュレイ様は迷惑そうにしているけどされるがままだ。

 

「こんな形って……十代前半の少年にしか見えませんけど」

「えへっ。呪いが失敗しちゃって」

「のっ、呪い!?」


 トゥーリは舌を出した。まるで悪戯がバレて笑って誤魔化す子供のようだ。

 この人は見た感じ二十代後半だけど……やっぱり魔法使いだからかな。呪いが失敗したといいながら本人の態度は楽観的だ。


「いったいなんの呪いですか?」


 呪いとは魔法使いが人間相手にかける暗示だ。記憶操作も呪いの一つ。いや、人にかけるのだから呪いの根底はすべて記憶にまつわるものといってもいいのかもしれない。

 ということは記憶操作と銘打って、わたしも呪いをかけられる寸前だったのだろう。危なかった。


「恋の呪いよ。アシュレイ様と隣国メイサの王女サフィラス様が婚約してるのは知ってる?」

「それは知りません」

「婚約してるんだけど、サフィラス様はごつい男が嫌いで逃げ回ってるのよ。細くて繊細な吟遊詩人みたいな男が好みなんですって。だからサフィラス様に呪いをかけてアシュレイ様に惚れさせちゃえっ! ……って思ったんだけど失敗しちゃったの」


 トゥーリは「あはは!」と笑いだした。

 え?

 今のなにがおかしいの?

 わたしにまとわりついているアシュレイ様もつられて「あはは」って笑い出しちゃったし。

 すべてが事実なら一番の被害者はアシュレイ様なのでは? 笑える状況じゃないよ? と思いながらアシュレイ様を見下ろすと、「えへ」とはにかむ。かっ、可愛い……。


「失敗してアシュレイ様が小さくなっちゃったってことですか?」

「そうそう。サフィラス様に気付かれて呪いを弾かれちゃって。サフィラス様も有能な魔法使いなのに油断しちゃった。急いで防御したんだけど、アシュレイ様に呪いの半分がいっちゃってね」


 いくらアシュレイ様と結婚したくないといっても、隣国の王女も自分の立場を分かっているだろう。王族の結婚は仕事の一つ。どんなに嫌でも結婚は無しになんてならない。それなのに呪いをかけようとするなんて。


「メイサ国の王からそうするように言われたのですか?」

「ううん。拒絶されるアシュレイ様が可哀そうだったからわたしの独断よ」


 へぇ、勝手にやっちゃったのか。うん、この目の前の魔法使いならやりそうだ。

 だけど王女が気づいて呪いを跳ね返したってことは、トゥーリがしようとしたことはばれているのよね。国際問題に発展しないだろうかと心配になる。


 それにしても……こんなに愛らしい美少年を拒絶するなんて。

 ごつい男が嫌いなのはまぁ分からないでもないけれど、アシュレイ様が成長してもごついよりも綺麗な男性になっている姿しか想像できないのにな。


 この状況は間違いなくトゥーリの思考がおかしくて起きたことだ。アシュレイ様を犯罪者だとかサイコパスだとか思ってしまって悪かったな。


「それにしても、恋の呪いなのにどうして小さくなっちゃったんですか?」

「術式間違えちゃたみたいなの。初めは見た目も中身も五歳児くらいだったんだけど、十日前にあなたを見つけてからは体だけ急成長中。慌てて組み立てた術式だからいろいろおかしなことになっちゃったみたいね」


 あっけらかんとしたトゥーリの様子に嫌な予感が……いや、嫌な予感しかしない。


「呪いの半分はアシュレイ様にとなると、もう半分はどうなったんですか?」

「ラナって魔法使えないけど魔力があるよね?」


 トゥーリは質問に答えず「うふふ」と笑った。会ったばかりだけど、これは彼女が何かをごまかす時の癖だと分かる。


「そのように聞いています」


 わたしは魔法使いではないけど、魔力だけなら膨大な量を持っているらしい。高給取りの魔法使いになれたらよかったのに、残念ながら魔力を使いこなす能力がまるでなかった。そういう人間は珍しくない。


「あなたの魔力の器はわたしより大きくて、飛んで行った呪いの半分がすっぽり収まっちゃったのね。それが原因でラナは眠り続けることになったみたいね」


 みたいねって……他人事じゃないよ。あなたがしたことだよ!

 そう声を大にして言いたくても、さらに悪いことが起きそうで言えない。小心者な我が身は情けないが、力を持った魔法使いや権力者を前に反攻して罰を受けるのは怖い。


「わたしとラナの異なる魔力同士がせめぎ合っる間、本体のラナは休止状態になっちゃったの。わたしの魔力がラナの膨大な魔力に覆われていたせいで、飛んでいった魔力をなかなかみつけることができなくて大変だったわ」


 はじけ飛んだ呪いの半分を放置せずちゃんと回収したのはよいことだ。

 トゥーリならほったらかしにしそうだと思ったけど、そこまで酷い魔法使いではなかったのか。もしくはアシュレイ様が呪いを受けた反動で身も心も小さくなったのが原因か。……うん。きっと後者だな。わたしだけに害があるならこの魔法使いは放置したに違いない。


 魔力の干渉を受けて眠っていたから、部屋から運び出されても気づけなかったのね。わたし自身は何も感じられないけど、トゥーリの魔力とわたしの魔力は相性が悪くて体の中で戦っていたらしい。


 そんなわたしが見つけられたのは十日前。

 アシュレイ様はわたしと接触したことで体の成長が始まった。だからいつ大きくなってもいいようにぶかぶかの服を着ているというわけなのね。




 

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