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血を試しましょう


 アシュレイ様と手を繋いで洞穴を進む。あのあと二回も巨大な黒いモグラの魔物に出くわしたけど、サラちゃんとアシュレイ様の連携で見事やっつけて無事だ。


 モグラが現れるたびに「ここから動かないで」と隅に追いやられる。アシュレイ様を守るために死ぬ覚悟をしていたわたしは、瞬く間にモグラがやっつけられる様をただじっと一人で安全に見ているだけだった。


 アシュレイ様とサラちゃんの素晴らしい連携攻撃。一人と一匹のお陰でわたしの出る幕なんてない。

 なにしろ本当にアシュレイ様は強いのだ。そして巨大化もとい本来の大きさに戻ったサラちゃんの吐く炎はまさに業火。


 そうこうするうちに四匹目が現れると、ほんの少しだけど魔物との遭遇にも慣れてくる。


「ここから動かないでね」

「はい。アシュレイ様、サラちゃん。気をつけてくださいね」


 邪魔にならないように自分から窪みを見つけて壁にへばりつく。サラちゃんは命令がなくてもモグラに向かって炎を吐いて、光りに包まれたアシュレイ様は普通の人間では不可能な跳躍を見せてモグラを一刀両断にした。


 剣についた血を振り払いながら戻ってきたアシュレイ様。サラちゃんはぴょんと飛びついてブローチに擬態する。

 サラちゃんも凄い。こんなに凄い魔物をわたしにくれたアシュレイ様に感動しちゃう。


「怪我はありませんか?」

「もちろんないよ」

「サラちゃんもありがとう」


 指先で頭をちょんとつついたら甘噛される。こんな時だけどトカゲ……じゃなくてサラマンダーの可愛さが分かってきたところだ。


「ねぇラナ」

「はい、なんでしょう?」


 サラちゃんをぷにってしていたら手首を掴まれた。


「魔力がなくなってきたからもう一度貰ってもいい?」


 えっと……それってあのやり方だよね?

 硬直したわたしに「駄目かな?」と、アシュレイ様は眉を下げて上目遣いで見てきた。 

 かっ、可愛すぎる!

 ずきゅんと胸を撃たれた。


「もちろんです。いくらでもどうぞ!」


 わたしが魔力を持っていても使えないので無駄なだけ。それならアシュレイ様に有効活用してもらったほうが断然いいに決まってる。なにしろ今は緊急事態でもあるし。アシュレイ様の魔力が尽きたら灯りもなくなって真っ暗闇。さらには魔物や刺客に対応できなくなってしまう。


「えっと、その……」


 ただやり方が問題だ。

 あれをするのよね?

 わたしなりにやり方は理解した。魔力は体液に触れることでやりとりができるのだろう。

 うん? あれ?

 ふとした違和感に首をひねると、目の前のアシュレイ様も首をひねった。

 仕草や見た目は変わっていない。でも、何となく違う。


「アシュレイ様、もしかして記憶が戻っていませんか?」


 青い瞳が見開かれる。目が泳いで不安そうな表情になってゆっくりと頭が沈んでいった。


「ごめん、ラナ。すぐに言えなくて……」

「やっぱり!」


 アシュレイ様をもとに戻す方法は契ること。肉体的な結びつきだとトゥーリに言われてそれを信じ切っていたけど……。


「さっき魔力の受け渡しをしたからですね!」

「え?」


 アシュレイ様が驚いたように顔を上げる。

 気づいてないのかな? でもきっとそうよ。わざわざ契らなくても体液のたぐいの唾液や、もしくは血なんかも有効なのではないだろうか。

 わたしにしかできないお役目のハードルが一気に下がってほっとした。


「アシュレイ様、どのくらいまで記憶は戻っていますか?」

「えっと……割と戻っている」

「そう、よかった! あと何回か魔力の受け渡しをしたら記憶と体が完全に戻れるかもしれませんね!」


 やだ、すぐに言ってくれた良かったのに何を遠慮してるのか。

 いや、記憶が戻り始めて世の中の常識を理解し始めたのだから、こんなことをわたしにさせてはいけないとアシュレイ様は考えたのかもしれない。なにしろ素敵な天使なのだ。ああ、成長したアシュレイ様も綺麗な心を持っているのねと感動した。


「アシュレイ様。わたしの口から魔力を受け取るのが嫌なら血を試してみませんか? わたしなんかの血を舐めるなんて気持ち悪くて嫌かもしれませんが、口を合わせるよりましだと思うんです。その剣を貸してくれたら手首を自分でスパッと切ってみせます」

「ラナ!」


 解呪に向けての見通しが立って興奮するわたしをアシュレイ様が強く呼んだ。剣を放り投げてぐいっと頭を引かれる。


「たとえ君自身だろうとラナを傷つけるなんて許さない!」


 目前のアシュレイ様の瞳はとても悲しそうだった。思わず「はい」と返事をしてしまう。


「口から頂戴。さっきみたいにするね?」

「わ……かり、ました」

「少し屈んでくれる?」


 言われるまま膝を緩めて屈むと、天使のごとき美麗な顔が近づいてぎゅっと目を閉じた。


「ラナ。ボクはラナが大好きだよ」


 囁くように言われた途端、柔らかい唇が触れて時が止まる。しばらくして熱い舌が入ってくると、味わうように口内を舐られた。






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― 新着の感想 ―
ラナさん可愛いな。 でも、普通の人間は、手首からあふれる血を舐めるのはハードル高いと思うよ。 しかも、剣で切るのは大事故起こりそう。 それはそれとして、アシュレイくん、ちょっとどさくさ紛れに楽しん…
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