呪いの顛末 その1(アシュレイ)
トゥーリのせいでまさかこんなことになるなんて。
今となっては怒っていいのか悪いのかすら分からない。
私はディード王国の三番目の王子として生を受けた。
兄が二人いるお陰でいずれは王族から籍を抜いて臣下となることが決まっていた。そのため比較的自由に生きることが許される。
魔力をためる器はごく一般的な大きさだったものの、攻撃魔法を使いこなす能力が高かった。それに加えて体を動かすのも好きだったので、魔法使いではなく騎士への道を選んだ。
自分で言うのもなんだが、子供の頃は天使のような綺麗な男の子と褒めはやされた。綺麗な顔をしているせいでご婦人方からの人気は絶大。側に置きたがる婦人が後を絶たず、子供の頃の私は大人の女性が大の苦手だった。
そんな私にも婚約者がいた。二歳年下の、メイサ王国のサフィラス王女だ。
本来彼女には別の婚約者がいたらしいが、私の見た目に一目惚れしたらしく、王女の強い希望で私との婚約が調った。
本来他国の王女を迎え入れるとするなら、次期国王となる長兄の相手としてが普通だったが、サフィラスは「天使の奥さんになりたいの」と我儘を通した。
恐らく彼女の婚約者が、メイサでもそれほど高い爵位を持つ貴族でなかったのも許された原因の一つだろう。
王女としては我儘だったが、両国間の話し合いで決まったことなので私から特に何か意見することはなかった。
そんなことより当時の私は騎士としての能力を上げることに夢中で、結婚相手は年上のご婦人以外なら誰でもよかったというのもある。
六歳年上で騎士のガウディと、三歳年上のトゥーリが主な私の側仕えとなった。
ガウディは剣の師でもあり、トゥーリは魔法の師でもある。
特にトゥーリは様々な魔法に精通していて魔法の研究にも熱心だ。呪いを開発したり、他の魔法使いが作り出した呪いを自分なりに解釈して再現する能力にも長けている。
ただ少し……いや、かなり自己中心的な考えをする魔法使いだ。時に私やガウディを実験台に、了承をとることなく魔法の能力を試すようなことをする。
ある朝目が覚めると蛙の大群に囲まれていたときはさすがに驚かされた。あの実験はいったい何をしていたのかいまだに不明だ。
そんなトゥーリだが、私やガウディに対する執着は強い。
私やガウディの陰口を耳に入れようものなら相手を見つけ出して呪いをかける。やめるように言い聞かせてもこっそりやったりしている。
薄毛に悩む高官の髪がすべて抜け落ちた時と聞いた時は本当に可哀そうだった。彼は後に謝罪して、今はふさふさな頭髪となっているので結果としては良かったのかも知れないが。
そして今回。トゥーリはついに国際問題にかかわるような呪いを発動させた。
久しぶりにサフィラス王女がディード王国を訪ねてきたのだが、彼女は私を一目見るなり「こんな男はわたしの婚約者じゃない!」と叫んで逃げ出したのだ。
彼女への愛情があったわけではない。けれど私なりにサフィラスへの気遣いは常々行っていた。
国を越えているので会えない分気を遣い季節の便りは必ずしたし、祝い事への贈り物も相応しいものを母と相談して贈ったものだ。
しかしながら私は王女の好みとかけ離れた外見へと成長してしまったらしく、細身で美しい吟遊詩人が好みだという王女は婚約破棄を宣言した。
さすがにそんなことが許されるわけがない。私との婚約も彼女の我儘から始まったが、子供だった当時と異なり国際問題に発展する出来事だ。
私としては彼女と結婚してもうまくいかないと思えたので破棄でよかったが、国としては許せるはずがなく。
腹黒い長兄は「賠償金になにを要求しようかな」と喜んでいたが、息子を馬鹿にされた母は大激怒。絶対に許さないと武力行使も辞するなとの旨を父である国王に告げていた。
そんな中でトゥーリがやらかした。
急遽開発した「アシュレイにべた惚れになる呪い」なるものを王女にかけようとしたのだ。
しかしまたサフィラスも有能な魔法使いだった。
見事呪いをトゥーリへとはじき返し、さらにトゥーリも呪い返しから我が身を守るためにはじき返す。そうして弾かれた呪いは二つに分裂して一つは私に。私はどういうわけか身も心も五歳児程度の子供となり、記憶もそのころまで後退してしまった。
そしてもう一つはまったく無関係のラナへと向かい、彼女を長い眠りへと誘うことになったのだ。
さらに私の知らぬところで長兄が「馬鹿のせいで賠償金が取れなくなった!」と大激怒しているらしい。




