第267話:忍び寄る影
大盛況だった肉祭りが一段落し、聖域ドラゴニアには平和で穏やかな時間が流れていた。
キャンピングカーの『キッズプレイルーム』で遊んでいたぽんたは、お腹いっぱいハンバーグと離乳食を食べたせいか、ユウの膝の上ですやすやと気持ちよさそうに寝息を立てていた。
「ふふ、本当にユウ様のお膝が大好きなんですね」
セリスが優しく微笑み、ぽんたの頭を撫でる。
だが、その平和な空気を切り裂くように、車内のスピーカーから高音の警戒アラートが鳴り響いた。
『警告。雲海下層三千メートルより、多数の武装飛行物体の接近を感知。識別記号:指名手配中の空中密猟組織【黒鮫飛行船団】』
ナビの声と同時に、フロントガラスに凶悪なサメの紋章を掲げた五隻の重装甲飛行船が、暗雲を破って浮上してくる映像が映し出された。
「密猟船団……!? なんであいつらがこんな聖域に!?」
レニが青ざめて叫ぶ。
『目的の解析を完了。彼らの狙いは、本日孵化した古代種『虹竜』の幼体——ぽんたです。ブラックマーケットにおいて、数億ゴールドで取引される超希少種としてターゲットにされています』
「ぽんたを……売る気なの!?」
ルナが激怒して身を乗り出した、その瞬間。
——ズドン! ズドォォンッ!
大気を激しく揺らす砲撃音が轟いた。
黒鮫飛行船団の砲門から放たれた黒い魔法弾が、ドラゴニアの巨木の枝を直撃し、激しい炎と黒煙が上がった。竜人族の悲鳴と竜たちの怒りの咆哮が響き渡る。
『ギハハハハ! 邪魔だ竜ども! 虹竜の赤子を差し出せば、命だけは助けてやるぞ!』
船団の旗艦から、拡声魔法を通した下品なダミ声が響き渡る。
膝の上で、ぽんたが恐怖に怯えて「きゅ……きゅ〜ん……」と身を縮め、ユウの服をギュッと掴んだ。
ユウの瞳から、温かな光が消え、静かな怒りの炎が宿る。
「……俺たちの家族に手を出す奴は、容赦しない」
ユウがそっとぽんたをセリスに託し、操縦席のシートへと滑り込んだ。




