第264話:はじめての離乳食
「ほら、ぽんた! お肉よ、いっぱい食べなさい!」
慌てたレニが差し出したのは、新鮮だが血の滴る生肉の大きな塊だった。
だが、ぽんたは「ぷいっ」と顔を背け、嫌そうに小さな前脚で肉を押し返すと、さらに「きゅ〜〜〜んっ!」と悲しそうに大泣きし始めた。
「ええっ!? なんで断るの!? 竜の赤ちゃんは肉を食べて大きくなるのに!」
「レニちゃん、落ち着いて。まだ生まれたばかりなんだから、顎の力も胃腸の消化能力も追いついてないんだよ」
ユウは苦笑しながらレニを制し、キッチンへと向かった。
ネットスーパーの画面から注文したのは、蜜がたっぷり入った青森県産の最高級サンふじりんご、完熟バナナ、無添加の黄金はちみつ、そしてオーガニックの赤ちゃん用粉ミルクだ。
手鍋で温めたぬるま湯に粉ミルクを優しく溶かし、すり鉢で丁寧にすりおろした瑞々しいりんごと、フォークで滑らかに潰したバナナを投入する。仕上げに隠し味としてほんのひとさじのはちみつを垂らし、滑らかになるまで念入りに混ぜ合わせた。
完成したのは、甘くフレッシュな香りを漂わせる『黄金の特製フルーツ離乳食ペースト』だ。
「よし、ぽんた。お待たせ。美味しいごはんができたよ」
ユウが木製スプーンにペーストを少量すくい、泣きじゃくるぽんたの口元へそっと近づけた。
ふわりと鼻腔をくすぐる、果実の爽やかで甘い香り。
ぽんたは泣き声をピタリと止め、小さな鼻をくんくんと鳴らした。そして、おそるおそるピンク色の舌を伸ばし、スプーンの先端をペロリと舐めた。
——瞬間。
「きゅ……っ!???」
ぽんたの黄金色の瞳が、まるで見開かれた。
お口の中に広がるのは、とろりと滑らかな優しい喉越しと、りんごのフレッシュな甘酸っぱさ、そしてバナナとミルクの濃厚なコク。
「きゅ〜うっ♪ きゅ〜うっ♪」
次の瞬間、ぽんたは尻尾をプロペラのようにブンブンと振り回し、狂喜乱舞! ユウの手からスプーンごと奪い取る勢いで、離乳食ペーストをガツガツと夢中で舐め取り始めた。
「わぁ……! すごい、あんなに喜んで食べてる!」
セリスとルナが微笑ましく見守る中、お椀いっぱいにあった特製離乳食は、あっという間に一滴残らず綺麗に完食されたのだった。




