SS:観測士アナの告白とホットチョコレート(アナ視点)
観測塔の最上階は、いつも痛いほどの静寂と冷気に満ちていた。
星の軌道を計算し、予兆を記録する。それが観測士としての私の義務であり、誇りだった。でも、大人たちは誰一人として私の警告を信じてくれなかった。
『アナ、子どもの戯れ言はもうおよし。星が狂うはずなどないのだから』
そう言って冷たくあしらわれた時、私の心は観測塔の石畳よりも冷たく凍りついた。
だから、彼らが現れた時も、私はとげとげしい言葉で追い払おうとしたのだ。
奇妙な鉄の箱に乗ってやってきた、旅人たち。どうせこの人たちも、私の言葉なんて信じてくれない。邪魔をされるくらいなら、一人で凍えていた方がマシだった。
それなのに——。
「はい、特製のホットチョコレート。マシュマロが溶けないうちに飲んでみて」
差し出されたマグカップから立ち上る、甘く暖かなカカオの香り。
両手で包み込んだ陶器の熱が、寒さで感覚を失っていた指先にじんと染み込んできた時、鼻の奥がツンと痛くなった。
(……温かい。すごく、温かい……)
一口飲んだ瞬間、体中に広がったのは未体験の濃厚な甘みと、とろけるようなミルクのコクだった。凍りついていた私の心が、その一口でみみるみるうちに溶かされていくのが分かった。
「諦めるのはまだ早いさ。みんなで、あの彗星片を撃ち落として、スタラグランドの星空を守ろう」
ユウがそう言って笑った時、私は初めて気づいたのだ。
私は一人で戦うのが怖かっただけなんだと。
天窓から降り注ぐ光のシャワーを見上げながら、私は密かに誓った。これからはもう素直になろう。そして、あの温かいホットチョコレートの味を、一生絶対に忘れないようにしようと。




