第256話:迫る黒蝕の彗星片
「都市が……沈む……?」
ルナが息をのんだ。
『ナビ、アナちゃんの観測データを解析してくれ。事実かどうか確認したい』
『了解しました、マスター。天体望遠鏡システムと同期し、深層空間スキャンを実行します』
ナビの声と共に、キャンピングカーの天窓グラデーション表示に、暗黒の宙域の3Dマップが映し出された。
そこには、青く美しい星々の群れの中に、毒々しい黒紫色のオーラを纏った巨大な岩塊——『黒蝕の彗星片』が、恐ろしい速度でスタラグランドへと直進してくる姿がくっきりと描かれていた。
『解析完了。アナ観測士の予測は100%正確です。あの彗星片は、周囲の星魔力や光エネルギーを吸い尽くしながら巨大化する特殊な呪外天体。到達まで、残りおよそ四時間。衝突すれば、この都市の浮遊機関は完全に沈黙します』
「そんな……! 大変じゃない! すぐに都市の市長や警備隊に知らせないと!」
セリスが立ち上がると、アナは悲しそうに首を振った。
「無駄よ……。私、何度も大人たちに警告したわ。『少女の妄想だ』って誰も取り合ってくれなかった。それどころか、危険分子扱いされて観測塔に追いやられたのよ……」
アナが悔しそうに拳を握りしめ、唇を噛み締める。
その時——ウゥゥゥゥン……と、都市全体を揺らすような不気味な低音が響き渡った。
天窓越しに見えるスタラグランドの街並み。その青白い魔導灯が一斉に激しく明滅し、都市の中心にある大観測塔の光がプツリと途絶えた。
「きゃっ! 観測塔のシステムが……! 彗星片から放たれた闇の磁場が、もう届き始めてるんだわ……!」
アナの顔から血の気が引いていく。
「都市の防衛システムも、観測塔の大型レンズも、もう動かない……。うそよ……本当に、このまま全部終わっちゃうの……?」
膝をつき、絶望に瞳を濡らすアナ。
だが、その震える小さな肩に、ポカポカと温かい手が優しく置かれた。
「大丈夫だよ、アナちゃん」
振り返ったアナの視線の先にいたのは、静かに微笑むユウだった。その瞳には、恐怖も焦りも欠片すらなかった。
「都市の望遠鏡が動かなくても、俺たちにはこのキャンピングカーがある。頼りになる仲間に、最高のAIナビもね」
「ユウ……?」
「諦めるのはまだ早いさ。みんなで、あの彗星片を撃ち落として、スタラグランドの星空を守ろう」




