第254話:寒空のホットチョコレート
キャンピングカーのキッチンに戻ったユウは、さっそくネットスーパーの画面を呼び出した。
「極寒の観測塔で飲むなら……やっぱりこれだな」
取り出したのは、オランダ産の最高級カカオパウダーと、コクのあるジャージー牛乳。それに、トッピング用の自家製大粒マシュマロだ。
エスプレッソマシンのスチームノズルから、シュコーッという心地よい蒸気音が響く。手鍋の中で濃密なカカオが溶け込み、そこへ高温の蒸気でクリーミーに泡立てた濃厚ミルクを注ぎ込む。
途端に、甘く芳醇なカカオの香りが車内いっぱいに弾けた。マグカップに注ぎ、仕上げに白いマシュマロを三つ浮かべ、チョコレートシロップを細く回しかける。
「よし、出来上がりだ」
ユウとセリスは、湯気を立てる耐熱マグカップをトレーに乗せ、再び極寒の観測塔へと向かった。
観測塔の最上階では、アナが相変わらずかじかんだ手でペンを握りしめていた。
「言ったでしょ、部外者の手助けなんて……」
言いかけたアナの鼻腔を、ふわりと漂ってきた甘く暖かな香りがくすぐった。
カカオの深みと濃厚なミルク、そして焼き上がった砂糖の香ばしい匂い。極寒の空気の中で、その香りはあまりにも暴力的で、魅力的だった。
「……な、何よそれ」
「はい、特製のホットチョコレート。マシュマロが溶けないうちに飲んでみて」
ユウから差し出されたマグカップ。手渡された瞬間、陶器の温もりがかじかんだ両手にジンと染み渡る。それだけで、アナの瞳が揺れた。
「べ、別に頼んでないけど……冷めちゃうと勿近ないから、一口だけ飲んであげるわ」
強がりながら、アナはマグカップに唇を寄せ、ふうふうと息を吹きかけてから、とろりとした褐色の液体を口に含んだ。
瞬間——アナの瞳が、限界まで見開かれた。
(〜〜〜〜っ!??)
口いっぱいに広がるのは、未体験の濃厚なカカオのコクと、まろやかなミルクの優しさ。そして、熱でとろりと溶けかけたマシュマロが、まるで雲を味わっているかのように甘く喉を撫でていく。
一瞬で喉から胃袋へ、そして指先から足先へと、じんわりとした幸福な熱が広がっていく。寒さで強ばっていた身体の筋肉が、嘘のように解きほぐされていった。
「……な、何これ……! 美味しい……こんなの、食べたことも飲んだことも……っ」
「ふふ、お気に召していただけて良かったです」
セリスが優しく微笑むと、アナの頬は恥ずかしさと熱気でぽっと赤く染まった。彼女はもはや一口では止められず、マグカップを両手で包み込みながら、夢中でホットチョコレートを飲み干していくのだった。




