第253話:孤高の星詠み少女
大天体観測塔の螺旋階段を登る足音が、冷え切った石造りの壁に反響していた。
外気は相変わらず凍えるような寒さだ。セリスが防寒コートの襟をすぼめ、ルナが息を吹きかけた手をすり合わせている。
「うう……あの車内のポカポカから出た直後だから、余計に寒さが身に沁みるわね……」
「ええ、でも……あの塔の上で一人で観測している人がいるのなら、どれほど寒いことか……」
螺旋階段を登りきると、そこは360度が吹き抜けになった観測ドームだった。
中央には、青銅と水晶で組み上げられた巨大な天体望遠鏡が鎮座している。その脇で、厚手のローブを羽織った一人の少女が、熱心に羊皮紙へ図形を書き込んでいた。
薄い藍色の髪を二つに結い上げた、勝気そうな瞳の少女——星詠みの観測士アナだ。
「……何よ、あんたたち」
ユウたちの足音に気づいたアナが、図面から顔を上げた。その瞳には、隠そうともしない警戒の色が宿っている。
「変な形の鉄の箱に乗ってやってきた部外者でしょ。観光なら他を当たってちょうだい。ここは星の軌道を計算する神聖な観測所よ。遊び半分で立ち入られたら迷惑なんだけど」
開口一番の棘のある言い方に、ルナが眉をひそめて一歩前に出ようとしたが、ユウがそれを手で制した。
「怪しい者じゃないよ。挨拶と、ちょっと星空が綺麗だったから見に来ただけさ」
「挨拶? ふん、いらないわよそんなの。私は星の計算で忙しいの。余計な邪魔をしないで」
そっけなく言い放ち、再び望遠鏡へと視線を戻すアナ。だが、ユウの目は見逃さなかった。
羽織っているローブはつぎはぎだらけで薄く、羊皮紙を握る彼女の指先は痛々しいほど赤くかじかんでいる。ペンを握る手は微かに震え、吐く息は真っ白だった。観測に夢中になるあまり、暖を取ることすら忘れているかのようだった。
「……観測も大事だけどさ。そんなに手が凍えてちゃ、正しい数字も書けないんじゃないか?」
「なっ……! 余計なお世話よ! 観測士の冷えなんて、星の真理に比べたらどうでもいいの!」
アナが強がって突っかかる。だが、その直後に『くしゅんっ!』と可愛らしいくしゃみが一つ、寒空の観測塔に響き渡った。
赤くなるアナの耳。ユウは苦笑しながら、肩をすくめた。
「まあ、そう言わずにさ。ちょっとあったかいものでも飲んで暖まろうよ」




