第252話:天窓のプラネタリウム
スタラグランドの外縁部、青白い魔導灯が石畳をかすかに照らす広場に、キャンピングカーは滑るように着陸した。
一歩車外へ出れば、肌を突き刺すような極寒の冷気が満ちている。だが、一重の扉を隔てた車内は、全館暖房と床暖房の効果で春先のようなぬくもりに満ちていた。
「はぁ〜……極楽じゃな。外は凍え死ぬほどの寒さだというのに、ここは天国かの」
ソフィアがふかふかのソファに深々と腰掛け、ネットスーパーで呼び出した温かいホットミルクを一口すする。ルナもテーブルに頬を寄せ、うっとりと息を吐いていた。
「本当ね……。こんな標高の高いところで、あったかいミルクが飲めるなんて幸せすぎるわ」
『マスター。周囲の大気中に充満する高純度の星魔力を検知しました。これをトリガーとして、キャンピングカーの拡張変形シーケンスを実行します』
ナビの言葉が終わるや否や、車内全体に心地よい機械駆動音が響き渡った。
ガコン、と重厚なロックが外れる音がし、天井の遮光パネルが左右に滑らかに滑り込んでいく。さらに、天井の傾斜に合わせて車体上部のフレームがせり上がり、天井全体が透明度の極めて高い特殊クリスタルガラスへと変形した。
「わっ……!? 天井が……消えた!?」
ルナが思わず立ち上がる。
天井だけではない。天窓から左右の側窓にかけての曲面ガラスが一体化し、車内のリビングが360度全方位の星空に包まれたのだ。
『形態名称:【プラネタリウム&星空テラスモード】。オリハルコンフレームと星魔力が共鳴し、車内から外気をシャットアウトしたまま、完璧な天体観測を可能にする空間へと進化しました』
「すげえ……! まるで空の中に浮いてるみたいだ」
ユウが天窓を見上げると、頭上いっぱいに広がる天の川が、手にとるように近くに見えた。室内の照明が自動的に落とされ、星々の煌めきだけが車内を青白く照らし出す。
「きれい……本当に、星の海の中にいるみたいです……」
セリスの手が、自然とユウの手と重なる。彼女の瞳には、満天の星々が小さな光となって映り込んでいた。
その幻想的な空間を全員で楽しんでいた、その時だった。
「……ねえ、ユウ」
ルナが天窓の一角を指差し、不審そうに眉をひそめた。
「あの高い塔のてっぺん……巨大な望遠鏡の横から、誰かがこっちをものすごい顔で覗いてない?」
ルナの指さす先——都市の中央に聳え立つ『大天体観測塔』の最上階。
そこから、一人の少女が小さな単眼鏡を覗き込み、不機嫌そうにこちらのキャンピングカーを睨みつけていた。




