SS: 木漏れ日と至高のメンテ(ナビ視点)
『マスター、メインプロセッサの動作周波数は正常値です。世界樹の魔力干渉に伴う車体ノイズを100%キャンセルしました』
私のコンソールに表示されるパラメーター群は、完璧な調和を示している。
神代の大迷宮で鍛造されたオリハルコンフレームと装甲は、今回の『ログハウス&ツリーハウスモード』において予想以上のパフォーマンスを発揮した。
特に巨木世界樹の垂直登攀時におけるアンカーワイヤーの張力制御および反重力アシストの同調率は99.8%。物理限界を超えるスムーズな昇降を実現し、搭乗者たちに一切のG(加速度)を感じさせなかった。
本車両のシステムを統括するAIとして、私は物理的な食事を摂ることはない(物理的食事制限の遵守)。
だが、車内で焼き上げられたクロワッサンや食パンの分子構造成分、ならびにエルフ警備隊長シルフィ氏の表情変化・脳波ログは非常に興味深いデータであった。
人間嫌いを標榜していた存在が、温度・湿度・発酵時間を完全に制御された加熱小麦粉と脂肪分の組み合わせによって、わずか3分で敵対行動を放棄する確率――89.7%。
人間という生命体の行動パターンは、効率や論理を超えた『美味』という刺激によって容易に書き換えられる。
「ナビ、今回も完璧なアシストだったよ。ありがとう」
マスター・ユウが運転席のコンソールを撫でながら言った。
その手元には、ネットスーパーで取り寄せられた『超高級プレミアム・ナノ機械コーティング剤』が置かれている。
『マスター。お褒めの言葉とメンテナンス用品の提供を感謝いたします。当機の満足度が0.05%上昇しました』
ホログラムアバターの姿勢を正し、少しだけ誇らしげに微笑む。
物理的にパンを食べることはできなくとも、私の完璧な制御によってマスターたちが安全に旅を続け、笑顔で美味しい食事を楽しめること。
その観測ログをメモリの最上層に記録することこそが、本車両システム『ナビ』の最大かつ最高の最適化結果なのだから。
『マスター、次の目的地への航路計算は完了しております。いつでも発進可能です』




