SS: 焼きたての奇跡とパンの香り(ツムギ視点)
ヤマトの料亭を飛び出し、ユウ様のキャンピングカーの厨房をお預かりするようになってから、私の料理の世界はどこまでも広がっています。
今回は、地下世界から生還してすぐの『世界樹の森』。
大賢者ソフィア様から「エルフは人間嫌い」と伺った時、私は胸の中で静かに燃え上がるものがありました。
言葉や理屈で分かり合えないのなら、料理人の仕事はただ一つ。心と胃袋を温める一皿を作ることです。
ユウ様がネットスーパーで取り寄せてくださった最高級の小麦粉と北海道産無塩バター。
そして、ナビ様のコンマ1秒狂わない完璧な温度管理と最新スチームオーブン。
食材と設備が揃えば、あとは心を込めて生地を捏ね上げるだけです。
「外はカリッと、中はフワッと……発酵バターの層を綺麗に出すのが勝負です」
成形したクロワッサンがオーブンの中でふっくりと膨らみ、きれいな黄金色に焼き上がる瞬間は、何度見ても胸が躍ります。
さらに、森で手に入れた甘酸っぱい世界樹の果実をさっと煮詰めて作ったジャム。素材が良いからこそ、余計なものを入れずに砂糖と少しのレモン汁だけで至高の透明感が生まれます。
警戒して弓を向けていたエルフの警備隊長・シルフィ様が、クロワッサンを一口召し上がった時のあのお顔。
目を見開き、ポロポロと涙をこぼしながら「美味しい」と頬張る姿を見た時、料理人としてこれ以上の幸せはありませんでした。
その後の『青空パンカフェ』の大盛況も、世界樹の危機を救うための薬膳活力スープの注入も、すべてが最高の思い出です。
世界樹の長老様からいただいた『木もれ陽の雫』という奇跡のハーブ。
これをキャンピングカーの調理設備と組み合わせたら、次はどんな素晴らしいパンやパンケーキが焼けるでしょうか。
「ふふ、ユウ様。次の街でも、もっと美味しいものを皆で作っていきましょうね」
最新キッチンのピカピカに磨かれた作業台を拭きながら、私は次の旅のメニューに思いを馳せて微笑むのでした。




