第236話:エルフの里のカフェ開店
「……というわけで、怪しい者ではありません。仲良くしてくださいね?」
シルフィが口のまわりに赤くて甘いジャムをいっぱいつけながら「美味……美味です……」と放心状態になっている間に、異変と香ばしい匂いに気づいたエルフたちが樹上から次々と下りてきた。
人間嫌いで有名なエルフ族だが、森中に漂う暴力的なパンの匂いと、自分たちの隊長が涙目で落城している姿を見て、好奇心が爆発したらしい。
「あの木箱……ログハウスから恐ろしいほど甘くて香ばしい匂いがするぞ」
「隊長が涙を流して夢中で貪っていたアレは何なんだ……!?」
ザワザワと群がる大勢のエルフたちに対し、僕は笑顔でログハウスのウッドデッキからオーニング(日よけ幕)を爽やかに広げた。
「皆様、ようこそお越しくださいました! 『森の青空パンカフェ』開店です!」
ツムギとセリス、そして看板娘のナナがエプロン姿でカウンターに立ち、焼き立ての角型食パン、厚切りフレンチトースト、クロワッサン、さらにネットスーパーのアイスミルクティーやカフェオレをセットにして手際よく提供し始める。
「厚切り食パンのフレンチトーストです! 仕上げにメープルシロップをたっぷりかけてどうぞ!」
「こちらは世界樹のハーブとネットスーパーの紅茶を合わせた、特製アイスハーブティーです!」
エルフたちが半信疑でフレンチトーストを一口口に含むと――
「「「う、美味すぎるーーーっ!!!」」」
静かな森に、エルフたちの歓声が轟いた。
木もれ陽がやわらかく差し込む森の中、ログハウス風のキャンピングカーの前にはあっという間にエルフの大行列が完成した。
普段は木の実や生の野草ばかり食べている格式高いエルフたちが、バターとメープルシロップの染み込んだ熱々のフレンチトーストに目を輝かせ、「おかわりはあるのか!?」と大賑わいを見せている。
「べ、別に美味しくなんて……うぅ、クロワッサンをもう二個……いえ、三個ください……っ!」
シルフィも恥ずかしそうに頬を朱に染めながら、しっかり列の最前列に並んでいた。
「ふふ、頑固で気位の高いエルフどもも、美味い料理の前では形無しじゃな」
ソフィアがパラソルの下で優雅にハーブティーを飲みながら、クックックと満足げに笑う。
直前までの危険でピリついた雰囲気はどこへやら、僕たちのキャンピングカーは、世界樹の森の新しい憩いの場としてエルフたちに大歓迎されたのだった。




