第235話:世界樹ジャムと至高の朝食
焼きたてのクロワッサンを網に乗せると、サクッという繊細な音が車内に軽やかに響いた。
表面は綺麗なきつね色の層が幾重にも重なり、バターの塗りがツヤツヤと宝飾品のように輝いている。
さらにツムギは、道中で採取した甘酸っぱい「世界樹の果実」を小さめの小鍋に入れ、ネットスーパーのグラニュー糖と一緒にさっと煮詰め始めた。
パチパチと果汁が跳ね、甘くフルーティーな蒸気が立ち上る。ツヤのある輝くルビー色の『特製世界樹ジャム』が完成した。
「よし、ウッドデッキオープン!」
僕が車内のボタンを押すと、ログハウスモードの車体側面がゆっくりと開き、お洒落な木製カウンターとデッキが姿を現した。
ルナが待ちきれない様子で、焼きたてクロワッサンをナイフで開き、厚切りバターとルビー色のジャムをたっぷり塗りたくってガブッと豪快にかぶりつく。
サクッ! じゅわぁぁぁ……!
「んんん〜〜〜っ! 美味いっ! 外はパリッパリで中は信じられないくらいフワフワ! バターの濃厚な旨味とジャムのキュッとした酸味が合わさって最高だよー!」
「ルナちゃんずるーい! ララも食べるー! あむっ、美味しい〜っ!」
二人が目を丸くして幸せそうに頬張る光景と匂いに、樹上のエルフたちの理性が完全に限界を迎えた。
「く、屈しません……人間の食べ物など、屈しませんよぉ……っ!」
半泣きになりながら震える手で弓を構えるシルフィの前に、セリスが優しく微笑みながら、バスケットに入った熱々のクロワッサンと瓶詰めジャムを差し出した。
「警備のお仕事、お疲れ様です。冷めないうちに、どうぞ召し上がってください」
「なっ……私を毒殺する気ですか!?」
「ふふ、毒など入っていませんよ。一口召し上がっていただければ分かります」
セリスの清らかな聖女の笑顔に毒気を抜かれ、シルフィはおそるおそるクロワッサンを受け取った。
指先から伝わる温もりと、香ばしいバターの匂いに耐えかね、目を瞑ってパクリと小さく一口……。
サクッ。
「……っ!!???」
シルフィの身体がビクッと跳ね上がった。
口の中に広がる、信じられないほどの香ばしさと濃厚なバターのコク。そして、自分たちがただの野草扱いしていた世界樹の果実とは思えないほど爽やかで甘美なジャムの味わい。
「な、何ですかこれは……っ! 噛むたびに溢れるこの香ばしさは何なのですか……っ!!」
気づけば、シルフィはポロポロと涙をこぼしながら、夢中で二口、三口とクロワッサンを大きな口で頬張っていた。
「美味しい……美味しいです……っ! こんな美味しいもの、生きていて食べたことがありません……っ!」
エルフの誇り高き警備隊長は、至高の朝食の前に完全落城したのだった。




