第233話:樹上の弓手と警戒の矢
ログハウスモードに変形したキャンピングカーで、静かな森林を進むこと数刻。
世界樹の巨大な幹と、その周囲に広がる無数の枝木が見え始めたその時、前方の樹上から鋭い風切り音が響いた。
ヒュンッ、ドスッ!
車体のわずか数メートル手前の地面に、鮮やかな緑色の羽がしつらえられた一本の矢が突き刺さった。
「警告。前方樹上に生命反応多数を検知。高精度な弓を構えた人型生物の一隊です」
ナビの静かな声とともに、キャンピングカーを自動停止させる。
見上げると、太い枝の上に幾筋もの影が立っていた。
尖った耳と透き通るような肌、エメラルドグリーンの瞳を持ち、洗練された緑の弓術着を身にまとったエルフたちだ。
その中央で、一番小柄な少女が美しくもしなやかなしなりの木弓を引き絞り、眼下の僕たちを鋭い眼光で見下ろしている。
「立ち去りなさい、不躾な人間ども! 我が聖なる世界樹の森を、その怪しげな木箱で踏みにじることは許しません!」
凛とした、しかし高慢さと強い警戒心の滲む声が森に響く。彼女こそがエルフの警備隊長「シルフィ」だった。
「ひぇ……急に矢が飛んできたよ! あの耳の尖ったお姉さん、すっごく怒ってる!」
ルナが驚いて身を縮め、腰の短剣に手をやる。
「エルフ族は古くから閉鎖的で、人間を露骨に信頼しておらぬからの。特にあの娘は、見るからにプライドが高そうじゃ」
ソフィアが呆れたように肩をすくめ、ダボダボのローブの袖を撫でた。
「すいません! 僕たちは森を傷つけるつもりはありません! 旅の途中で世界樹の姿を一目見たくて訪れただけです!」
僕が車内マイクを使って平和的に呼びかけるが、シルフィは眉をキュッと釣り上げて突っぱねる。
「口先だけの言い訳など聞きません! 人間など浅はかで欲深く、自然を荒らすだけの種族! さっさとその木箱を回頭して森から出ていきなさい! さもなくば……次は車輪を射抜きます!」
ピリッとした張り詰めた緊張感が森を包む。
だが、オリハルコンで補強されたキャンピングカーの装甲と窓ガラスは、エルフの矢くらいでは傷一つ作れない。とはいえ、下手に反撃すれば無用の争いになってしまう。
「ユウ様、せっかくの出会いですし、争うのは避けたいところですね……」
「そうだね、セリス。ここは一旦車内に引き下がって、平和的な解決策を考えよう」
僕は落ち着いてキャンピングカーのドアを施錠し、ウッドブラインドをそっと下ろした。
樹上のシルフィたちは、僕たちが「恐怖で閉じこもった」と思っているようだが――僕たちには、どんな武器よりも強力で平和的な「秘密兵器」があるのだ。




