第232話:新形態・ログハウスモード
「ここから先が『世界樹の森』の領域ですね、マスター」
ナビのアナウンスとともに、フロントガラスの向こうに果てしない巨木の群生が見えてきた。
一本一本の木が太さ十メートル以上、高さは雲に届くほどの百メートルを超え、見上げるような大樹が広大な森を形作っている。樹々の隙間からはエメラルドグリーンの木漏れ日が優しく差し込み、空気中には瑞々しい苔と澄み渡る土の匂いが満ちていた。
地面はうねる巨大な根とコケで覆われ、通常の車両であれば一歩も進めないような起伏に富んだ悪路だ。
「よし、ナビ! 例の『新モード』を試してみよう」
『了解いたしました。オリハルコン製可変サスペンションおよび森林適合プロトコルを起動します。変形シークエンス、開始』
ナビの落ち着いた声と同時に、車体が重厚で滑らかな機械音を奏でた。
神代の火炉でオリハルコンをコーティングした高強度フレームがしなやかに伸縮し、タイヤが巨大なクローラーと衝撃吸収ダンパーを備えた多関節サスペンションへと可変する。
さらに、金属質だった車体の表面が、まるで樹齢数百年を思わせる温かみのある深いブラウンの木目調パネルへとシームレスに変化していった。
「わあ……! 木目模様です! まるで森の中に立つお洒落なログハウスのようですね!」
セリスが車外モニターを見ながら、目を輝かせて感嘆の声を上げる。
「デザインだけじゃないぞ。車体全体に『樹木透過シールド』が展開された。木々の隙間を吸い込まれるように通り抜け、根の激しい凹凸を完璧に吸収して走行できるんだ」
運転席のハンドルを握る。巨大な根の起伏を乗り越えても、車内には振動一つ伝わってこない。まるで上質な絨毯の上を滑っているかのような極上の乗り心地だ。
「すごーい! おうちが木になっちゃった! 木のおうちだー!」
ララがログハウス風にリフォームされた車内を楽しそうに駆け回る。壁面は温かな無垢材の木壁に変わり、最新の調理設備の周りにはお洒落なウッドカウンターとカフェテラス用の可動壁が組み込まれていた。
「これなら森の自然や巨木を傷つけることなく、奥深くまで進めそうですね。厨房の設備も、木造ログハウスの雰囲気に合わせて最適化されています」
ツムギが真新しいシステムキッチンの前に立ち、木目調に統一された最新調理器具を愛おしそうに確かめる。
「ふむ……冷たい金属感が消え、森の精霊にもすんなり受け入れられそうな温かな佇まいじゃな。流石は我が相棒の車じゃ」
ソフィアも肘掛けに身を預け、満足そうに頷いた。
僕たちは新形態『ログハウスモード』の快適で滑らかな走りで、神秘的な木もれ陽が差し込む世界樹の森の深部へと足を踏み入れるのだった。




