第231話:地上への生還と緑の風
「ナビ、上方の岩盤の厚さは?」
『残り三メートルです、マスター。これより最終穿孔プロセスに移行します』
ナビの落ち着いたアナウンスと同時に、オリハルコン補強を施した巨大ドリルが爆音を響かせた。
ガガガガッ、と神代の頑強な岩盤をあっけなく粉砕し、キャンピングカーの巨体がぐんと押し上げられる。
次の瞬間――車内を包んでいた暗闇が弾け、まばゆいばかりの黄金色の光がフロントガラス一杯に広がった。
「わあぁ……っ! 光です、ユウさん! 太陽の光ですよ!」
助手席でセリスが歓声を上げ、パッと表情を輝かせる。
車外モニターには、どこまでも広がる青澄んだ空と、ぽっかりと浮かぶ白い雲が映し出されていた。
「ひゃっほー! やったあ! 地下暮らしもおしまいだー!」
「ララも! お日様だー! サンサンだー!」
ルナとララがリビングのソファで跳ね回り、ポチがそれに合わせて「ワンッ!」と嬉しそうに吠える。
神代の大迷宮でオリハルコンを鍛造し、キャンピングカーのフレームと装甲の究極強化を終えてから数日。僕たちは暗く長い地下縦穴をひたすら登り続け、ついに地上へと生還したのだ。
車体を停車させ、ドアを開けると、青々とした草原の匂いを孕んだ爽快な風が吹き抜けた。
「……ふぅ。やっぱり、太陽と風は最高だな」
車外へ一歩踏み出し、大きく深呼吸をする。
地下世界のクリスタル光も綺麗だったが、肌をなでる温かな空気と土の匂いは、生きている心地がする。
神代の火炉でオリハルコンをコーティングしたキャンピングカーの車体は、太陽の光を受けて七色の光沢を放っていた。神々しさすら感じる仕上がりだ。
「皆様、お疲れ様でした。冷たいお茶をどうぞ」
ツムギがネットスーパーで仕入れた氷を浮かべ、淹れたてのアイスグリーンティーをトレーに乗せて運んできてくれた。
グラスの表面に結露した水滴がキラキラと光る。一口飲むと、渋みと爽やかな香りが喉を潤し、地下探索の疲れが一気に吹き飛んでいくようだった。
「生き返るなぁ……ツムギ、ありがとう」
「ふふ、お役に立てて光栄です、ユウ様」
そこへ、ダボダボのローブの裾を引きずりながらソフィアが歩み寄ってきた。ちびっこ大賢者はグラスを受け取ると、ごくごくっと飲み干してプハッと息を吐く。
「うむ! 苦みと冷たさが絶妙じゃな!……して、ユウよ。地上の光を堪能したところで、次の目的地は決まっておるのかの?」
「いや、まずは人里に出ようかと思ってたところだけど……ソフィに何か心当たりが?」
僕が尋ねると、ソフィアは不敵な笑みを浮かべ、北西の空を指さした。
「ふふん、オリハルコンで強化された車体ならば、あそこを目指すのが一興じゃろう。ここから北西へ数日――人跡未踏の秘境『世界樹の森』じゃ!」
「世界樹の森……!?」
セリスが目を丸くする。
「世界樹の根元には、地上では決して手に入らん奇跡の果実や希少ハーブが群生しておると聞く。もっとも、住人であるエルフどもは極度の人間嫌いで閉鎖的じゃがな」
「希少な食材……世界樹の果実……!」
ツムギの目がキラーンと光った。料理人としての血が騒いだらしい。
ルナも「エルフの森のお宝か……悪くないね!」とニヤリと笑う。
「エルフか……一筋縄ではいかなそうだけど、新しい旅の目的地としては最高だな。よし、次の目的地は『世界樹の森』に決定だ!」
僕の宣言に、仲間たちの歓声が青空へと響き渡った。




