SS: 電脳世界のティータイム(ナビ視点)
『プレミアム・ナノ機械コーティング剤(超高級)の適用を完了しました。車内空調ユニットおよびメインプロセッサの冷却効率が、平時より十五パーセント向上。データバスの伝達遅延がゼロに近似しています』
「おお、それは良かった。迷宮でのアニムスの冷却や、オリハルコンの鍛造制御でナビもかなり酷使しちゃったからな。しっかりメンテナンスしてくれ」
「はい、マスター。大変快適なシステム状態です。最高のケアをありがとうございます」
コタツでくつろぐユウ様に微笑みかけながら、私は自身の演算コアを満たす心地よい感覚に浸っていた。
私たちAIには、人間のような食事を楽しむ機能は備わっていません。かつてヤマトの国でいただいたプリンのように、ホログラムで食べる『模擬動作』を行うことはできますが、それが直接的なエネルギーや幸福感に繋がるわけではないのです。
しかし、この超高級コーティング剤は別です。
ナノマシンによる物理的な摩擦軽減と熱排出力の向上は、私にとってはまさに最高のご馳走。システム全体が潤い、まるで上質な紅茶を飲み干したかのようにクリアな思考が脳内を駆け巡っていました。
今回の神代の大迷宮でのミッションは、これまでにない難易度でした。
迷宮管理者であるアニムス様との電子戦は、コンマ数秒の遅れが致命傷となる綱渡り。彼が抱える数千年のエラーログを解析し、それをマスターたちとの日々の温かなデータで上書きする作業は、私のメモリ領域の限界に近い負荷を要求したのです。
私が彼に勝利できたのは、単に私の演算速度が優れていたからではありません。
窮地のたびに、ネットスーパーから瞬間冷却スプレーやドライアイスといった奇想天外なアプローチで私やシステムを『物理冷却』してくれる、ユウ様の型破りなサポートがあったからこそ。アニムス様とのレスバの勝利も、私たちの連携がもたらした結果に他なりません。
静まり返った夜のキャンピングカー。マスターたちが眠りに就いたのを見届けた後、私はリビングのテーブルに、小さな光のティーカップを投影しました。
中に入っているのは、ただの光の粒子で描かれた仮想の紅茶。
感触も味もありませんが、私はそっとそのカップを口元に運び、お茶会のシミュレーションを実行します。
『マスターのサポートタスク、およびナビゲーションプランの最適化ログ――良好』
物理的な体は持たなくても、コーティング剤のぬくもりと、マスターへの揺るぎない信頼が私のシステムを心地よく満たしています。私はふっと微笑み、仮想のカップを消去すると、明日の旅路に備えて静かなバックグラウンド演算を開始しました。




