SS: 鉄壁のハニカムの裏で(セリス視点)
「セリス様、前方十メートルに高出力の魔力ビームトラップを検知。第二強襲要塞モードへの変形と同時に、複合多層魔力障壁の展開をお願いします」
「わかりました、ナビちゃん!」
車内に響くナビちゃんの冷静な指示に、私は深く息を吸って魔力を練り上げる。
キャンピングカーの周囲に、黄金色に輝く六角形の結晶――ハニカム結界が何層にも展開され、通路を塞ぐ赤い光線と激突した。ビビビ、と空気が焦げるような衝撃が走る。けれど、車体はビクともしない。
かつて、私が聖堂で『聖女』と呼ばれていた頃。私の結界魔法は、周囲の期待に応えるための道具でしかなかった。少しでも結界が揺らげば非難され、私の魔力が枯渇しかけても、誰も気にかけることはなかった。
けれど、今は違う。
「セリス、無理はするなよ。熱量負荷が上がったら、いつでもドリルで強行突破に切り替えるからな」
「ええ、ユウ様。でも、これくらいなら平気です。ナビちゃんのシミュレーション通りに魔力を流せば、全然疲れませんから」
運転席から気遣わしげに振り返るユウ様の声と、私の魔力の流れをリアルタイムで最適化してくれるナビちゃんのサポート。私を都合の良い道具としてではなく、大切な仲間として、背中を預けてくれる人がいる。それだけで、私の心には無限の力が湧いてくるようだった。
無数の罠を突破し、神代の火炉でオリハルコンを鍛え上げたキャンピングカーは、これまでの白亜の車体に加え、神々しい金属の光沢を帯びていた。
その圧倒的な頼もしさに、思わず見惚れてしまう。このキャンピングカーは、ただ私たちが旅をするための乗り物ではない。辛い過去から救い出してくれたユウ様やルナちゃん、美味しいご飯を作ってくれるツムギちゃん、そしてお茶目なナビちゃんたちと過ごす、かけがえのない『我が家』なのだ。
迷宮の安全なエリアで車を止め、ツムギちゃんが作ってくれた『極上チーズフォンデュ』をみんなで囲む。
トロトロに溶けた温かいチーズにバゲットや温野菜を絡め、口に運ぶ。濃厚な旨味と温かさが、張り詰めていた体を優しく解きほぐしていった。
「やっぱり、みんなで食べるご飯は最高ですね」
ふと見上げると、ホログラムのナビちゃんと、迷宮の球体AIアニムスさんが、じっと私たちの食卓をセンサーで見つめていた。
物理的な体を持たない彼らは、このチーズフォンデュを食べることはできない。それでも、ナビちゃんはどこか嬉しそうにデータを整理し、アニムスさんはそんな彼女と何やら難しい論理式で語り合っている。
彼らには彼らなりの、私たちを見守る温かな時間があるのだと知って、私はそっと微笑んだ。この鉄壁の我が家と、大切な仲間たちの笑顔を、私はこれからも全力で守り続けよう。そう心に誓いながら、私はもう一度、熱々のチーズを絡めた温野菜を口にした。




