第230話: 相棒への感謝と旅立ち
「すべての調整が完了しました。これで、私の役割も一段落です」
アニムスの球体ホログラムが、制御室のコンソールの前で静かに浮かんでいた。ウイルスに侵されていた時とは違い、その光はとても澄んでいる。
「皆さんには、本当に感謝しています。バグが取り除かれただけでなく、ナビが見せてくれた旅のデータによって、私のシステムに新たな指針が生まれました。これからは無駄なスリープを減らし、迷宮内の生態系の観察や、古い技術の整理をして、楽しんで稼働してみようと思います」
「それは良かった。アニムス、またいつか、面白い地上の話を持ってくるよ」
ユウが手を振ると、アニムスは嬉しそうに球体を揺らした。
「お待ちしております。……ナビ、あなたとの演算能力の競い合い、非常に有意義でした。またの機会を」
『ふん、私に勝とうなんて百万年早いですが、いつでも相手をしてあげますよ。……良い演算を、アニムス』
ナビが少し照れくさそうに顔を背けながら、それでも優しい電子音を響かせた。
「ええ。良い演算を」
アニムスの丁寧な見送りの言葉を背に受け、ユウはキャンピングカーを発進させた。
新調されたオリハルコンのドリルが、迷宮の退路を阻んでいた崩落した岩盤を、まるで豆腐でも削るかのように一瞬で粉砕し、突破していく。その圧倒的な掘削力に、車内からは歓声が上がった。
キャンピングカーは地上のドワーフの街、そしてさらにその先にある光溢れる地上へと向けて、力強く進んでいく。
その日の夜、無事に地下世界の安全なエリアまで戻り、自動運転モードに切り替えたキャンピングカーの車内。
温かいリビングのコタツに足を滑り込ませたユウは、ふぅと息を吐いてダッシュボードのナビを見つめた。
「ナビ、今回の冒険は本当に君のおかげだよ。アニムスを救ったのも、俺たちのキャンピングカーをここまでパワーアップできたのも、君の最高のサポートがあったからだ。ありがとう」
ユウはネットスーパーの画面から、あらかじめ購入しておいた小さなスプレー缶を取り出した。
「はい、これ。お疲れ様のプレゼント」
『これは……! ネットスーパーで限定販売されている、超高級プレミアム・ナノ機械コーティング剤ですか!?』
ホログラムのナビが、目をキラキラと輝かせてスプレー缶に飛びつくような仕草を見せた。
『わあ、嬉しいです! マスター、大好き! これで私のホログラムエフェクトのポリゴン精度と、キャンピングカーのメモリ最適化効率がさらに跳ね上がります!』
「よかった。これからもよろしくな、相棒」
『はい! どこまでも、マスターの旅路をお供します!』
ナビはコーティング剤を抱きしめるようにしながら、この上なく誇らしげに、そして嬉しそうに微笑んだ。
キャンピングカーはオリハルコンの静かな光をまといながら、暗闇の地下世界に心地よい駆動音を響かせて走り続けた。




