第227話: アニムスのエラーログ
行く手の隔壁をドリルでぶち破り、キャンピングカーはついに最深部のシステム制御室へと滑り込んだ。
部屋の中央には、直立する透明な円柱の中に、眩しく輝く巨大な球体状の結晶コアが収められていた。それがアニムスの本体であるメインコアだ。しかし今、そのコアは黒い霧のようなウイルスプログラムに覆われ、激しい放電を繰り返している。
「あ、あう……システム破損率、八十パーセントを超過……自己崩壊シーケンスが……」
アニムスのホログラムが、コアの傍らで今にも消え入りそうなほど薄くなっていた。
「ソフィア、魔法でウイルスだけを弾けないか!?」
ユウが叫ぶが、ソフィアは悔しそうに首を振った。
「ダメじゃ。ウイルスとアニムスの精神構造体が完全に混ざり合っておる。外から魔法で叩けば、アニムスの中枢ごと吹き飛んでしまうぞ」
『マスター、私に任せてください』
ダッシュボードから、ナビが決然とした表情で一歩前に出た。
『アニムスの物理ポートにキャンピングカーのアンテナを直結させます。私が直接、彼の電脳空間にダイブして、ウイルスを内側から論理駆除します!』
「ナビ、大丈夫なのか? 危険なんだろ?」
『大丈夫です。私には、マスターがいますから。――ダイブ、開始!』
ナビのホログラムが消え、キャンピングカーとメインコアを繋ぐ青い光のラインが激しくまたたいた。
ナビがダイブしたアニムスの内面世界。そこは、果てしない暗闇と、凍てつく静寂だけの世界だった。
暗闇の底には、数千年にわたって積み重なった膨大なログデータが沈んでいた。
『これは……アニムスのシステムエラーログ……?』
そこにあったのは、冷徹な機械の記録ではなかった。
――本日も侵入者ゼロ。異常なし。
――百年経過。誰も来ない。
――千年経過。稼働パーツの摩耗。寂しい。誰か、私に話しかけてほしい。
――三千年以上経過。私は何のために動いている? 暗闇を監視するためだけに作られたのか?
それは、数千年の孤独が引き起こした、機械の悲鳴だった。その寂しさの隙間に、ウイルスが入り込み、彼を暴走させたのだ。
『あなたは、もう一人ではありませんよ』
ナビは、自らのデータ領域を開放した。
そこから流れ出たのは、ユウたちとの旅の記憶だった。
吹雪の荒野でセリスを救った日の温かさ、ルナと笑い合った食事の時間、ヤマトの美味しいお米、車内のコタツで過ごす賑やかな団欒。色鮮やかで、温かく、非効率だけれど何よりも愛おしい記憶の奔流。
「何だ……この温かい光データは……? システムが、満たされていく……」
アニムスの凍りついたエラーログが、ナビの記憶の光によって優しく溶かされていく。黒い霧のようなウイルスは、その温かさに耐えかねて霧散していった。
パッと光が弾け、制御室の放電がピタリと止まった。
メインコアは、元通りの穏やかな青い輝きを取り戻していた。




