第225話: 迷宮の中のチーズフォンデュ
「うう……演算速度でも、セキュリティ強度でも負けるなんて……。この私が、ただの野良AIに……」
アニムスのホログラムが、広場の隅っこで弱々しく明滅しながらふてくされている。ナビとの電脳レスバに完敗し、すっかり戦意を喪失したようだ。
「よし、とりあえずアニムスも落ち着いたみたいだし、俺たちはお腹も空いたから夕食にしよう」
ユウが提案すると、待ってましたとばかりに女子メンバーから賛同の声が上がった。
ユウは早速、ネットスーパーの画面を開き、数種類の高級チーズ、新鮮なソーセージ、バゲット、そしてブロッコリーやミニトマトなどを注文した。光とともにテーブルに届いた食材を、ツムギが手際よく調理していく。
しばらくすると、キャンピングカーのキッチンから、濃厚で芳醇なチーズの香りが漂ってきた。
「お待たせしました! 今夜は『極上チーズフォンデュ』と、地下世界で採れたレアキノコを使った『きのこ尽くしのスープ』です!」
ツムギが中央にセットした陶器の鍋には、白ワインと数種のチーズが溶け合い、フツフツと黄金色の気泡を立てている。
「うわあ、美味しそう……!」
セリスが串に刺したバゲットを、トロトロのチーズに潜らせた。たっぷり絡めて口に運ぶ。
「んんっ! チーズがすごく濃厚で、パンの香ばしさと合わさって最高に美味しいです!」
「あたいはこのソーセージにしよう! ……あふ、あふっ、皮がパリッとしてて、中からジュワッと肉汁が……そこにチーズが絡んでたまらないよ!」
ララが尻尾をぶんぶんと振りながら、幸せそうに頬張る。
ルナもソフィアも、それぞれの具材を温かいチーズにくぐらせて、笑顔で食事を楽しんでいた。
キャンピングカーのカメラセンサーを通じて、その様子をじっと見つめていたアニムスが、ぽつりと電子音を漏らした。
「理解できません。有機体生命体にとって、食事とは単なる栄養素の摂取プロセスのはず。なぜあのように非効率的で、感情的な出力を伴う儀式を行うのですか?」
その問いに対し、ダッシュボードから見守っていたナビが静かに答えた。
『アニムス。彼らにとって食事とは、エネルギー補給だけでなく、心を豊かにし、絆を深めるための時間なのです。私たち機械には味覚センサーはありませんし、物理的な食事を直接摂取することは不可能です』
アニムスの球体が、小さく明滅する。
『ですが、彼らが美味しそうに笑い、満足している様子を観測し、その生体データを分析すること。そして彼らの旅がより快適になるようサポートすること。それこそが、私のシステムにとって最大の最適値――機械としての「幸福」なのですよ』
「幸福……サポートすることが、幸福……?」
アニムスはセンサーの焦点をユウたちの笑顔に合わせ、その温かな光景をじっと記録していた。




