第224話: 電脳世界のレスバ合戦
「ええい、やはり命令は絶対です! あなた方の乗る鉄の箱をハッキングし、自爆装置を起動……ジジ……あるいはエアコンの設定温度を最大にして嫌がらせをして差し上げます!」
青い球体型AIアニムスが、ホログラムの表面を激しく明滅させた。
直後、キャンピングカーの車内モニターに赤い警告ウィンドウが点滅しかける。しかし、それは一瞬で青い「安全」の文字へと切り替わった。
『ふふん、おとといおいでなさいな。その程度の古典的な論理爆弾、私の前ではただの砂遊びですよ♪』
ナビがふんぞり返り、鼻歌交じりにホログラムの髪をかき上げる動作をした。
「な、何ですって!? この私の超並列演算によるハッキングを、ミリ秒未満で完全遮断したというのですか!? その奇妙な移動式住居に搭載されているAI、規格外すぎます!」
『あら、私をただのAIと一緒にしないでいただけます? 私はマスター・ユウによって常に最適化され、異世界の叡智すら取り込んだ自律思考型極小万能インターフェースなのですから』
「はっ! 笑わせないでください! 私は神代の超文明が作り上げた最高傑作。この迷宮の防衛、気象管理、果ては炉の制御まで単独で行う偉大な存在。歴史の長さも、データベースの容量も、あなたのようなぽっと出のAIとは年季が違います!」
アニムスの球体が悔しそうに高速回転する。
『歴史が長くても、システムログが孤独のエラーでぐちゃぐちゃでは宝の持ち腐れですね。それに対して、私のマスターは無限の食材や最新機材を虚空から呼び出す「ネットスーパー」という神速の召喚魔法を操ります。そんな偉大なマスターに仕える私の方が、はるかに高スペックで幸福な存在です!』
「ネットスーパー? 虚空から食材? そんな非科学的な現象、私の物理エンジンが否定します! 嘘をつくのもたいがいにしなさい、この新参AI!」
『嘘だと思うなら、そのポンコツな視覚センサーでよく見ておきなさいな!』
ナビとアニムスの間で、目にも留まらぬ速度の演算レスバが繰り広げられていく。モニターにはログが滝のように流れ、スピーカーからは二人の機械による容赦のないマウント合戦が響いていた。
「……ねえ、ユウ。あの二人(?)、放っておいて大丈夫なの?」
セリスが呆れたように、目まぐるしく明滅するコンソールを見つめる。
「まあ、アニムスのハッキングはナビが完全に防いでくれてるし、実害はないかな……。ただ、ものすごい低次元な言い争いに聞こえるけど」
ユウは苦笑しながら、シートに深く寄りかかった。
電脳世界のレスバは、なおもヒートアップしていた。




