第223話: 深淵の寂しがり屋
拒絶の門を強行突破したキャンピングカーは、整然と敷き詰められた金属タイルの通路を走っていた。
壁面にはぼんやりと青いラインが走り、どこか未来的な雰囲気を醸し出している。
「床に仕掛けられた重量スイッチはないみたい。でも、壁のセンサーがさっきからずっとこっちを見てるよ」
ルナが助手席から窓の外を覗き込み、警戒を促した。
「右側の通路から、細かい機械の動く音が聞こえる!」
ララが耳をぴんと立てて叫ぶ。
次の瞬間、通路の角からカサカサと音を立てて、数体の金属製四足歩行メカ――クモ型の警備用ロボットが現れた。それらは赤い単眼を光らせ、電撃の走るアームを構えている。
「ナビ、ウォーター・キャノンで動きを止めろ!」
『了解です! 非殺傷モード、高圧放水開始!』
ルーフからせり出した放水銃が勢いよく水を噴射し、クモ型メカを壁に叩きつけた。さらにキャンピングカーから電磁防壁を周囲に展開し、近寄らせないまま一気に走り抜ける。
やがて通路が開け、巨大なドーム状の広場に出た。
中央には巨大な円柱状のコンソールがあり、青い光が明滅している。
ユウが車を停めると、その円柱の上部に設置された古い投影装置から、ノイズ混じりのホログラムが浮かび上がった。
それは、歯車のマークが表面にデザインされた、直径一メートルほどの青い球体の姿をしていた。
「ジジ……ピピッ……侵入者、検知。防衛プロトコルを起動……します」
電子的な音声が響く。だが、その声はどこか不安定で、機械的でありながら焦っているようにも聞こえた。
「排除……排除命令を実行……実行したくありません。いや、しなくてはならないのです! あ、あなた方は人間ですか? 本物の人間ですか!?」
球体型ホログラムが激しく上下に揺れ、ノイズが走る。
「ええと……俺たちは人間だけど」
ユウが窓を開けて戸惑いがちに話しかけると、球体はくるくると回転し始めた。
「人間! 実に四千二百十二年と八ヶ月ぶりの有機体生命体です! ああ、話がしたい、データベースを共有したい! ……しかし私は管理AIアニムス。侵入者は即座に消去するようインプットされています。よってあなた方を粉砕します! ……ので、最近の地上の流行りの言葉などを教えていただけないでしょうか? いや、死になさい! でも行かないで!」
「めちゃくちゃバグってるじゃん……」
あまりの支離滅裂さに、ルナがあきれたように呟いた。
どうやら数千年という想像を絶する孤独の果てに、「防衛命令」と「知的生命体とコミュニケーションを取りたい」という本能レベルのバグが激しく衝突し、精神が崩壊しかけているようだった。
『ふむ、なかなかに重症なシステムエラーのようですね』
ナビがダッシュボードの上に浮かび上がり、冷ややかな視線をアニムスへと向けた。
深淵の寂しがり屋である古代AIとの、奇妙な遭遇だった。




