第221話: さらに深き奈落へ
「本当にありがとうございました!」
ドワーフの鉱山長が、ずっしりと重い特製スパイスの小袋をユウの手に握らせた。
背後では、採掘用具を持ったドワーフたちが手を振って見送ってくれている。
キャンピングカーの荷台には、掘り出した伝説の金属「オリハルコン」の原石がしっかりと固定されていた。
「お世話になりました。すき焼き、気に入ってもらえてよかったです」
ユウは笑顔で応え、運転席に乗り込んだ。
キャンピングカーのドアが閉まると、外の賑やかさは遮断され、静かで快適な空間が戻る。
「さて、これからさらに地下深く、誰も立ち入らない『神代の大迷宮』を目指すよ」
ユウがハンドルを握りながら後方へ声をかけると、リビングからそれぞれの声が返ってきた。
「オリハルコンを鍛えられる超高熱の火炉……一体どんな場所なんでしょう」
セリスが少し緊張した面持ちで言う。
「どんなトラップがあっても、あたいの耳と鼻があれば大丈夫だよ!」
ララが狐耳をぴこぴこと動かし、胸を張った。
「ふむ、古代テクノロジーか。わしの魔法知識とナビの演算があれば、大抵の防衛機構は突破できるはずじゃ」
ソフィアが紅茶を優雅にすすりながら、自信ありげに微笑む。
『マスター、ルート検索完了です。鉱山街の最奥にある縦穴を下っていきます。深度は約二千メートル。地上の光は完全に届かない領域になります!』
ナビのホログラムがマップを指し示した。
キャンピングカーはゆっくりと発進し、巨大な縦穴の縁へと近づく。
縦穴の底は、ただ深い闇に包まれていた。ユウがスイッチを入れると、キャンピングカーの車体がふわりと浮き上がった。飛行・降下モードだ。
四つのホイールから魔力噴流が吹き出し、暗黒の深淵へとゆっくり降下を開始する。
ヘッドライトの光が、湿った岩肌を白く照らし出す。
下るにつれて気温は下がるが、車内はエアコンのおかげで常に適温に保たれていた。
「本当に不思議ね。こんなに深い地下なのに、車の中はまるでお城の部屋みたい」
ルナがソファで心地よさそうに目を細める。
「ふふ、キャンピングカー様々ですね。ユウさん、温かいお茶でも淹れましょうか?」
ツムギが台所からひょっこりと顔を出した。
「ありがとう、ツムギ。じゃあ、少しだけお願いするよ」
ユウは視線を前に固定したまま答えた。
高度計の数値は千五百、千八百、そして二千メートルへと減っていく。
突如、ナビのホログラムから警告音が小さく響いた。
『マスター、間もなく底に到達します。前方、何かしらの巨大な人工物を検知。構造解析をスタートします』
ライトの光が、縦穴の底を照らし出す。
そこに現れたのは、自然の岩肌ではなく、鈍く青い光を反射する巨大な金属製の門だった。幾何学的な紋様が刻まれた門は、周囲の岩壁と完全に一体化し、そびえ立つ城壁のように圧倒的な存在感を放っている。
「これが……神代の大迷宮の入り口……?」
ユウの呟きが、静かな車内に響いた。
その門の前に着地したキャンピングカーの行く手を阻むように、巨大な「拒絶の門」が立ちはだかっていた。




