SS: 地上の工房と遠隔のノイズ(ガーネット視点)
「……うー、ダメね。岩石に含まれる魔鉱石の磁気ノイズが強すぎるわ」
港町ポルトにある薄暗い工房で、ガーネットは工具をデスクに放り投げ、乱雑に散らばった回路図に突っ伏した。
油汚れのついたツナギを気にすることもなく、彼女は大きく溜息をつく。
目の前の魔導通信機からは、ザーザーという砂嵐のような不快な雑音だけが流れ続けていた。
数日前、ユウたちが「地下大迷宮」へ向けて出発した。
地下深くへ潜れば、地上との通信が著しく困難になることは火を見るより明らかだった。普通なら諦めるところだが、天才整備士を自負するガーネットにとって、それは挑戦すべき課題でしかなかった。
「あのバカでかいキャンピングカーを送り出しといて、整備士が知らんぷりできるわけないじゃない」
ガーネットは再び顔を上げ、拡大鏡を目にあてがうと、精密ドライバーで通信機の基盤をいじり始めた。
大地の奥深くに遮られた電波を拾うには、超広域の魔導共鳴波をキャッチするための空間干渉用の魔導結晶が必要だ。ソフィアが地下で重力魔法を使って通信のパスを開いてくれるはずだが、地上側がそれを受け取る準備を怠っては意味がない。
「ナビも、アタシの設計を信じて待ってるはずよ」
指先に全神経を集中させ、魔力を回路へ注ぎ込む。青い火花がパチパチと弾け、室内の照明が明滅した。
微調整を繰り返すこと数十分。ノイズの隙間から、かすかな周波数の揺らぎを感知した。
『――ザー、もしもし!? ユウ! ナビ! 聞こえる!?』
通信機のスピーカーに向かって叫ぶ。
すると、一瞬の静寂の後、雑音をねじ伏せるように澄んだ青いホログラムが空中に立ち上り、懐かしい声が響いた。
『バッチリ稼働しましたよ、ガーネット様』
ナビの誇らしげな声だ。
通信が繋がった瞬間、ガーネットは思わず拳を突き上げていた。
『超硬ダイヤモンドを使用した開削ドリルは、地下数百メートルに及ぶ魔鉱石の岩盤を時速十キロメートルという驚異的な速度で粉砕しました。大成功です』
「やったぁ! アタシの設計に狂いはなかったわね!」
疲れなど一瞬で吹き飛び、ガーネットは叫んだ。
そこからの時間は、まさに至福だった。もし地下のオリハルコンが手に入ったらどう補強するか、ナビとノンストップで技術トークを繰り広げた。
通信が切れた後も、ガーネットの胸の鼓動は高鳴ったままであった。
彼女は机の上の設計図を引き寄せ、鉛筆を握り直す。
「合金化の熱膨張リスクか……よし、アタシも負けてられないわ。さらに頑丈なドリルアームの構造を考えてやるんだから!」
遠く離れた地下世界の冒険に思いを馳せながら、地上の天才整備士は、再び熱狂的な作業へと没頭していった。




