第213話: 鉱山都市のしなびた食卓
「ほええ……地下にこんな街があるなんて」
ララが窓にへばりつき、尻尾をパタパタと揺らしながら感嘆の声を漏らした。
キャンピングカーの前に広がっていたのは、岩壁をくり抜いて作られた無数の石造りの家々だった。巨大なクリスタルの淡い青光に加え、あちこちに灯された松明の炎が、地底の街をぼんやりと浮かび上がらせている。ここがドワーフたちの鉱山都市「アンダー・グラウンド」だった。
「すごい規模だな。でも……なんだか少し静かすぎないか?」
ユウは徐行しながら、通りを歩くドワーフたちを観察した。
ドワーフといえば豪快に笑う種族というイメージがある。しかし、すれ違う住人たちは誰もが肩を落とし、青白い顔をして力なく歩いていた。街全体にどんよりとした重苦しい空気が漂っている。
「本当ね。お酒を飲んで騒いでるような活気が全然ないわ」
ルナが不審そうに眉をひそめた。
「その理由は、あそこにあるのではないかしら」
助手席のセリスが、通りの片隅にある共同食堂のような広場を指さした。
ユウはキャンピングカーを広場の脇に停め、様子を見るために全員で外へ出てみることにした。
石造りの長いテーブルには、数人の鉱員たちが座り、無言でスプーンを動かしていた。その皿に盛られているものを見て、ツムギが「あっ」と小さく声をあげた。
「……あれって、干し肉と、しなびた芋の塩煮?」
ツムギが皿を覗き込み、悲しそうに呟いた。
皿の上の肉は水分が完全に抜けきって石のように硬く、付け合わせの芋は泥のような色をしてグズグズに煮崩れている。新鮮な緑色の野菜はひとかけらも見当たらず、調味料も塩だけなのか、見るからに味気なさそうだった。
「ううむ、相変わらず地底の食生活は酷いものじゃな」
ソフィアが小さく溜息をついた。
「日光の届かない地底では農作物が育ちません。輸送も時間がかかり、新鮮な食材は腐るか高値になります。結果、長期保存ができる干し肉や乾燥芋ばかりになるのです」
ナナが冷静な声で、地下世界の食糧事情を解説する。
「こんな硬い肉ばかりじゃ、アゴが痛くなるだけだぞ……」
「新鮮なキャベツやトマトが食いたいなぁ。せめて、ネギが入った温かいスープでもあればなぁ……」
鉱員たちは、ぼそぼそと力ない声で愚痴をこぼしながら、義務のように硬い食事を口に運んでいた。彼らの目は完全に生気を失っている。
「ツムギ……」
ユウが隣のツムギを見ると、彼女はすでにエプロンの紐を強く締め直していた。その瞳には、料理人としての強い使命感の炎が宿っている。
「ユウさん! 私、ドワーフさんたちに美味しいものを食べてもらいたいです! こんな悲しい食事、絶対に間違ってます!」
「そうだね。僕たちにはネットスーパーがあるし、キャンピングカーのキッチンもある。よし、ここで炊き出しをやろう!」
ユウの言葉に、セリスやルナ、ララも笑顔で頷いた。
「大賛成! あたしも手伝うよ!」
「ふふ、またツムギの恐ろしい飯テロが始まるのじゃな。余も楽しみじゃ」
一行はキャンピングカーへと戻り、炊き出しのための準備を開始した。
地下世界の住人たちを驚愕させる、温かい料理の準備が始まろうとしていた。




