第211話: 地下世界の光と闇
「うわあ……綺麗……!」
キャンピングカーの助手席で、セリスが窓に顔を張り付かせるようにして歓声をあげた。
フロントガラスの向こうに広がっていたのは、言葉を失うほど幻想的な光景だった。
頭上を覆う岩の天井から、鍾乳石のように無数の巨大な水晶柱が垂れ下がっている。それらの結晶は、淡い青や紫色の光をやさしく放ち、暗闇の地下世界をぼんやりと照らし出していた。まるで星空を地底に閉じ込めたかのような、神秘的な光の大空洞だ。
「すごいね。地上にはない景色だ」
運転席のユウは、速度を落としてキャンピングカーを走らせながら、周囲を見回した。
極寒の機械都市スチームガルドに温かな春を告げ、ナナを新たな仲間に加えた一行は、次なる目的地をこの地下世界「アンダー・グラウンド」に定めていた。
目的は、キャンピングカーの装甲や設備をさらに強化するために必要な伝説の金属「オリハルコン」の採掘だ。大賢者ソフィアの古い文献から得た情報を頼りに、スチームガルドの郊外にあった巨大な竪穴から、潜水艇モードの浮遊機能を使ってゆっくりと降下してきたのだ。
『マスター、周囲の地質データをスキャン中。発光しているのは魔力を含んだ特殊な水晶群ですね。有害なガスや電磁波は検知されていません。空気清浄フィルターも正常に作動していますので、車内の空気は常に新鮮ですよ!』
ダッシュボードのホログラムから、ナビが元気よく解説する。
「本当に快適ねえ。地底だっていうのに、外のじめじめした空気も全然入ってこないし、エアコンも効いてて天国みたい」
後部座席の畳スペースで、ルナが掘りごたつに足を入れながら伸びをした。
「同感です。スチームガルドの寒さに比べれば、ここは天国のような室温ですね」
ナナが丁寧に淹れた冷たい麦茶を差し出しながら、無表情だがどこか嬉しそうに頷く。
「ふむ、地下深くにはまだ見ぬ珍しい食材や魔物も眠っているはずじゃ。ツムギ、腕が鳴るのではないか?」
ソフィアが麦茶を受け取りながら、隣のツムギに水を向けた。
「はい! 地下のキノコや、暗闇で育つ特別な植物、それに地下水で育った美味しい魔物とか……考えただけでワクワクしちゃいます!」
ツムギはすでに伝説の魔導調理器具セットをお玉のように握りしめ、目を輝かせている。
「みんな、観光気分なのはいいけど、ここは未開の地下迷宮だからね。何が出るかわからないから油断は禁物だよ」
ユウは苦笑しつつ、車の前照灯の光度を少し下げた。クリスタルの天然の光を邪魔しないためだ。
車のタイヤは悪路仕様のキャタピラへと換装されており、ゴツゴツとした岩肌を滑らかに進んでいく。
その時、前方に大きな影がいくつか見えた。
「ユウ、何かいるよ!」
ララがぴんと耳を立て、窓の外を指さした。
クリスタルの青い光の向こうで、何かがゆっくりと動いている。それは、地上の魔物とは明らかに異なる姿をしていた。
地底の冒険は、まだ始まったばかりだった。




