SS: 寒風と黄金の結界(セリス視点)
スチームガルドの空を覆っていた分厚い氷のドームが、今はどこか穏やかな茜色の夕日を透かしている。
私はキャンピングカーの助手席に座り、窓の外で楽しそうに「おでんのスープ」を受け取る街の人々を眺めながら、胸の内で小さな祈りを捧げていた。
北の大陸の寒さは、私の想像を遥かに超えて過酷なものでした。吹き荒れる雪嵐は肌を刺すように冷たく、立ち並ぶ鉄のビルや配管の群れは、まるで命の温もりを拒絶しているかのようで、最初は少しだけ心細かったことを覚えています。
「セリス、少し肩の力が入りすぎじゃ。ほれ、これを食べて体を緩めるがよい」
大賢者のソフィアちゃんが、コタツから小さな手を伸ばして、熱々のちくわぶをお皿に乗せてくれました。
「ふふ、ありがとうございます、ソフィアちゃん」
おでんをお箸で切り分け、そっと口に運ぶ。
もっちりとした食感と共に、鰹と昆布の優しいお出汁がじゅわっと口いっぱいに広がり、冷えていたお腹がぽかぽかと温まっていく。
この温かさこそが、ユウ様のキャンピングカーの中にある「本当の奇跡」なのだと思います。
マザーコンピューターが送り込んできた無数の機械兵たちと対峙したとき、私は必死に結界を張りました。
赤く光る恐ろしいレーザーや、凍てつく冷たい弾丸が降り注ぐ中、私の張った極光の結界と、車の黄金のシールドが重なり合った時、不思議な安心感に包まれたのです。
外はとても寒く、容赦のない戦いが繰り広げられていました。
けれど、結界の一歩内側には、いつだっておでんの優しい湯気が漂い、ユウ様が穏やかに微笑み、ツムギちゃんが大きな声を出し、ルナちゃんが頼もしく剣を構えてくれていた。
だから私は、恐れることなく祈りを捧げることができました。
「新しいお仲間も増えて、ますます賑やかになりますね」
キッチンの方向へ目を向けると、新しく仲間になったオートマタのナナちゃんが、ツムギちゃんの手ほどきを受けながら、真剣な顔で大根の面取りをしていました。
その様子を、ホログラムのナビちゃんが羨ましそうに飛び回って見守っています。
「はい! ナナはバグの分析として、この『おでんの仕込み』というタスクを極めて重要視しています」
「よしよし、ナナちゃんは筋が良いんよ! これから美味しいものをたくさん作ろうね」
二人の楽しそうな会話を聞いているだけで、私の心にもじんわりと温かなお出汁が染み込んでいくような気がします。
凍てついたディストピアにも、温かい食事と笑顔の力で、春を迎えることができました。
まだ見ぬ次の街でも、私たちはきっと、こうして温かい鍋を囲みながら、笑顔の絶えない旅を続けていくのでしょう。
私は温かいお椀をそっと抱きしめ、目の前を白く染める優しい湯気の向こうに、これから始まる新しい旅の景色を描くのでした。




