第208話: マザー・コアの対峙
管制塔の最深部。そこはスチームガルドという都市全体の思考を司る、最も無機質で最も凍てついた空間だった。
超伝導ケーブルが脈動するように光る回路壁の群れ、そして巨大な冷却ファンから噴き出す冷風が荒れ狂う広大な室内に、青白い光を放つ巨大な球体――マザー・コアが静かに浮遊している。部屋全体がマイナス数十度まで冷やされ、金属の床面は霜で白く覆われていた。
そこへ、隔壁を破ったキャンピングカーが滑り込むように停車した。
プシューという排気音と共にドアが開くと、冷たく澄んだ最深部の空気に、車内からあたたかな空気と、おでん鍋から立ち上る鰹と昆布 of ダシの匂いがぶわっと流れ込んだ。凍りついた鉄の床が、温かい湯気に触れて小さく水滴を作っていく。
『不法侵入者の無力化に失敗。最終防衛プロトコルを起動。物理的干渉による完全排除を実行する』
マザー・コアから冷徹な警告が響き、同時に天井の防衛ユニットから、空間を焼き尽くさんとする無数の赤色レーザー光線が照射された。
だが、キャンピングカーから降りてきたユウたちの表情には、微塵の焦りもなかった。
「聖なる光よ、彼らの悪意を遮りたまえ!」
セリスが神神しいまでの祈りを捧げると、彼女の周囲に黄金の極光障壁が展開される。さらにその外側を、ソフィアがコタツから抜け出て展開した、禍々しいほどの紫色の重力障壁が覆った。
「無粋な光線など、わらわの重力の前にはすべて歪んで無に帰すのみじゃ。少しは骨のある攻撃を仕掛けてこい」
ソフィアが退屈そうに指先を振ると、降り注ぐレーザーは結界の手前で不自然に屈曲し、床の鋼鉄に当たってむなしく火花を散らした。
ツムギは熱々のおでん鍋をしっかりと抱え、ユウとナナがその隣を歩く。ナビのホログラムも、ユウの肩口でふわりと浮いていた。
「マザーのシステム処理能力は低下しています。先ほどのレスバで生じた熱量が、まだ冷却しきれていないようですね」
ナビが楽しげに言うのを耳にしながら、一歩、また一歩と、冷たい霜を踏みしめて進む。彼らはマザー・コアの目の前まで歩み寄る。コアの周囲を漂う湯気が、無機質な機械の部屋でそこだけ奇跡のように温かく揺れていた。
『防衛機構の有効率ゼロパーセント。論理エラー……なぜ排除できない。お前たちの行動は生存効率を著しく下げるバグ行為である』
「バグなんかじゃないよ」
ユウはコアを見上げ、静かに微笑んだ。
「君は効率のために暖房を止め、美味しいご飯を食べる機会すら人から奪った。そんな効率の中に、一体何が残るっていうんだい? 冷たいままの回路で考え続けるより、少し温まる時間が必要なんじゃないかな」




