第204話: 敗残兵への炊き出し
ウォーター・キャノンによる高圧水流と魔力ジャミング波を受け、路地裏にはずぶ濡れになった自律警備機械兵たちが、鉄くずの山となって沈黙していた。
凍てつく風が機械たちの濡れた装甲を冷やし、氷の膜を張っていく。スチームガルドの空気は、吐き出す息を一瞬で凍らせるほど無慈悲だった。
「みなさん、お怪我はありませんでしたか?」
セリスが、車の影に潜んでいた労働者たちに優しく声をかける。彼らはボロ布の防寒着をまとい、寒さと恐怖でガタガタと震えていた。
そこへ、キャンピングカーのキッチンから、鰹と昆布の豊かな出汁にコクのある味噌と肉の脂が混ざり合った、温かい香りが漂ってきた。
「お待たせしたんよ! 極寒 of 極寒には、やっぱりこれに限るんよ!」
ツムギが運んできた大鍋には、大根や人参、ごぼう、そして豚バラ肉が煮込まれた具だくさんの豚汁が入っていた。
コタツの横で、ホログラムのナビがその様子を羨ましそうに見つめる。
「嗅覚データだけでも、私のCPU温度が急上昇しそうです。物理的な胃袋がないことがこれほど恨めしいとは」
「後で成分データと香りのシミュレーションログを同期するよ」
「ありがとうございます、マスター! メモリに永久保存しますね」
ナビが嬉しそうにする傍らで、ツムギは木製のお椀に豚汁をよそい、震える労働者に手渡した。
「ほら、まずはこれを飲んで温まるんよ!」
「こ、これは……?」
労働者はかじかんだ両手でお椀を受け取った。手のひらから広がる強烈な熱に男の目が見開かれる。
スープを一口すする。
「あつ……う、うまい……! 体が、芯から温かくなっていく……!」
男の目から涙がこぼれ落ちた。栄養サプリと冷水しか与えられず、凍えながら働くだけだった彼らにとって、豚汁の温かさは奇跡そのものだった。
他の人々も競うようにしてお椀を受け取り、ハフハフと息を吹きかけながら貪るように食べ始める。
その時、ずぶ濡れになって横たわっていた機械兵の一体がギギと動き、光学センサーが地面の雪に落ちた豚汁のしずくを感知した。
機械兵は自動分析プロトコルを作動させ、液体成分をスキャンする。
『成分分析……有機脂肪酸、ナトリウム化合物。エネルギー効率、想定限界値を突破。非効率的分子構造の中に、莫大な熱量と精神的安寧物質を検知……』
機械兵のセンサーが赤く点滅した。
『バグ。感情領域に未知のエラー。……おいしい。警告、この情報はシステム規約に存在しません。シャットダウンを拒……否……』
機械兵は「おいしい」というバグ情報を電子頭脳に書き込まれたまま火花を散らし、静かに沈黙した。
薄暗い裏路地。冷たい鉄の壁に囲まれた場所で、立ち上る白い湯気とお椀を持つ人々の笑顔だけが、暖かく輝いていた。




