第202話: お玉と双剣の舞
「防御スクリーンを過信したな。侵入経路を再計算。近接戦闘により防壁内部を破壊する」
機械兵たちの足元からスチームが噴き出し、彼らは一斉に跳躍した。結界が地面と接するわずかな隙間、あるいは結界をすり抜けるための特殊な位相シフトデバイスを用いたのか、数体の機械兵が障壁の内側へと滑り込んできた。
右腕のスチールブレードが、シャキィンと不気味な高音を立てて展開される。
避難していた労働者たちが悲鳴を上げる中、屋台の暖簾をくぐって、黒い影が風のように躍り出た。
「おいおい、アタシたちの極上おでんスペースを荒らすんじゃないよ!」
ルナだ。彼女は両手に構えた二振りの短剣をきらめかせると、刃に風の魔力を纏わせる。
突進してきた機械兵の懐へ恐れることなく潜り込み、目にも留まらぬ速さで刃を振るった。キィン、キィンと硬質な金属音が響く。ルナは機械兵を切り裂くのではなく、腕の関節を繋ぐボルトや、光学カメラのレンズだけを的確に弾き飛ばした。
関節の固定を失った機械兵の右腕が、力なくダラリと垂れ下がる。
「よし、次はアタシの番なんよ!」
威勢の良い声と共に飛び出してきたのは、ツムギだった。
彼女が手にしているのは、食の祭典の優勝賞品である『伝説の魔導調理器具セット』の一つ、驚異的な強度と排熱効率を誇る巨大な万能お玉だ。
「熱いおでんの前で冷たい鉄くずを振り回すなんて、料理人として許せないんよ! おでんの湯気で錆びちまえーっ!」
ツムギはまるで野球のバットを振るうように、お玉を豪快にスイングした。
ガギィィィン! と、およそ調理器具から出てはいけない重低音が響き渡る。ツムギの放った一撃は、魔導機械兵の頑丈な胸部装甲を大きく凹ませ、その巨体を路地の壁まで吹き飛ばした。壁に激突した機械兵は、火花を散らしながら動かなくなる。
「ふむ、なかなか良いスイングじゃな、ツムギ。ではわらわも少し手伝ってやろう」
コタツから上半身だけを出したソフィアが、小さな手を機械兵たちの頭上にかざす。
途端に、侵入してきた残りの機械兵たちの頭上に、視認できるほどの濃密な紫色の重力結界が形成された。
「ひれ伏すがよい、無粋な鉄くずども」
「ギギ……駆動ギヤに想定以上の垂直荷重を検知……圧壊危険レベル……」
メキメキと嫌な金属圧縮音が響き、機械兵たちは一歩も動けないまま、地面に膝を突き、そのまま這いつくばった。重力魔法によって動力を過負荷にされ、強制シャットダウンへと追い込まれていく。
あっという間に、障壁内は再び静けさを取り戻した。
ルナは短剣を鞘に戻し、ツムギはお玉に付いたススを布できれいに拭き取りながら、不敵に笑い合うのだった。




